春の日

梅春

第1話

 春子は春のように温かい女だった。


 ほかの季節ほど自己主張はなくても、一番好きな季節に選ばれるような、そんな好ましさがあった。


 ほんわりとしているようで、希望とか、出会いとか、ポジティブなものを感じさせる推進力があって、人を惹きつけた。


 そんな春子だったが、今はまだ雪解けの中にある。


 春子は宮城の海岸線にある小さな町の出身だった。


 ゾロ目のように数字が並んだ2020になり、あれから九年が経った。もう九年なのか、まだ九年なのか、人によって違うだろう。


 両親を失った春子にとってはまだ、まだ九年だろう。


 彼女はまだ、まだ、長い長い雪解けの中にいる。


 すぐ隣にいても、手をつないでいても、寒い夜に抱き合って眠っても、彼女との間には境界線がある。

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