暖来良思 〜春きたるらし〜
加須 千花
正月は寒いけど、我が家は暖かいです!
冬が過ぎて春がやって来たようだ。朝日がさす
万葉集 作者不詳
※春日山……奈良県奈良市の山。
* * *
奈良時代。
十二歳を迎えた
一月。
春を迎えたとはいえ、まだまだ寒い。庭の松の木にも、雪が残る。
遠く、
「綺麗だなあ……。」
新年だ。正月休み。
父上と
「おいで、
と
「わあい!
父上は、平城京の、
この仕事をするには、数学ができなくてはいけない。
父上は
「
「はい!」
お団子を頬張り、まったりしてると、長男、
勉強好きの真面目な
「ぶつぶつ……。ぶつぶつ……。」
「
「源、
「うん。」
「続きなさい。およそ大数の法、万万を億と
源は続いた。
「
「うん! でも、さっき教えてもらったの、わけわかんないよ!」
「はっはっは……、まだ十二歳だからな!」
「うーん。」
源が悩みながら庭を歩くと、
「源、悩み事か? こっちに来い!」
と、次男、
兄は、上衣を脱ぎ、筋骨隆々の上半身をさらし、薪割りをしていた。
「ふん! ふん! こうやって、汗を流せば、悩みは解決だ! さあ、やりなさい。」
「うん!」
源は薪割りで汗を流した。
「源、オレたちの祖先、
つまり、海を渡って活躍できる武芸を身につけていたからさ。
「うん!」
(こうやって武芸を鍛えてれば、案外、道は開けるのかも?!)
そう思って源が庭を歩いていると、
「おーい、源。」
と、上から四人目の子供、三男である
「こっち、こっち。」
と、上から五人目の子供、次女である
「なあに?」
「まあ、こっち来て見てろ。」
と、ヤブに引き込まれる。
しばらく無言でいたが、源はおしゃべりな性格である。
「な、渡兄ぃ、今年こそは、薬売り、一緒に連れてってくれるだろ?」
渡兄ぃは、
───父上は正七位下だ。田租は免除されているが、仕事ぶりに対して、
と、しょっちゅう薬売りをしながら、諸国を漫遊している。
「ああ、約束だ。一緒に行こう。ちゃんと歩くんだぞ? おまえに、沢山の国を、見知らぬ景色を見せてやろう。だが源、忘れるな。おまえは可能性がある。薬売りだけで終るな。大きくなれ。旅にでるのは、おまえを鍛える手段の一つでしかないと知れ。」
と渡兄ぃは、源の頭をワシワシなでた。
「うん!」
「しっ! 獲物が来たわよ。」
とにかく自由奔放、わくわくする事が好きな
道を、上から六人目の子供、三女である
「…………。」
冷たい目線で道を見つめ、
あとから、長兄、
「
「あたしに遠慮なく。あたしはここで読書してますので。」
「そう?」
落とし穴に落ちた。
「ぎゃー!」
渡兄ぃが、
「ぎゃはははは!」
「きゃはははは!」
源も一緒に、
「きゃっきゃっきゃっ。」
「こ、の、や、ろ、う、ども───!」
と怒り心頭で向かってきた。
「やあ、いつも真面目くさってる
と渡兄ぃ。
「前方不注意ですわよ、
と楽しそうな
いたずら犯の兄と姉が逃げ出したので、源も、
「逃げろーぉ。」
と笑顔でヤブを飛び出した。ちゃっかり、主犯格である渡兄ぃとは反対の方へ逃げる。木簡を閉じた
「はっ、なにやってるんだか。源、どうせ巻き込まれただけでしょ? こっちへいらっしゃい。」
と源をかくまってくれる。
「うん!」
「いつも冷静に。まわりを良く見極めて動くのよ。源。」
「うん!」
いつも冷静な
「
「源、お団子があるわよ、一緒に食べましょう?」
「さっき食べたけど、また食べる!」
「まあ、うふふ。」
優しくて、おっとりした
「この春、渡と一緒に薬売りに出るの?」
「うん!」
「そう、あたしは身体が弱くて、諸国を渡り歩くなんてできないわ。
冷静な
「それなら、身体が丈夫でも、
源、あたしも土産話を期待してるわ。銭に余裕があったら、書を土産にちょうだい。」
「うん、渡兄ぃと相談するよ。」
我が家は、なんでか、貧乏だ。
食うに困る、ではないが、いつも銭に余裕はない。
───いつか、大器となって、
源の夢だ。
庭では、
「待て!」
「待つか!」
と
「ふん! ふん!」
と
「あー、おかしかった。あたしも団子食べる!」
と両親の部屋に顔をだした。母刀自が、
「お食べ、お食べ。まだたっぷりあるからね。たくさん食べて、身体を丈夫になさい。何事もそれからよ。」
と新しいお団子の載った
冷静な
「
となごやかに声をかけ、父上が、
「兄弟が仲良く、なによりだ。皆、好きなことをなさい。」
と笑顔で頷く。
「お団子美味しいね、源。」
と綺麗な
「うん!」
源は、お腹いっぱいだけど、美味しく団子を食べる。
家族と一緒に食べる団子は、いくつ食べたって、美味しい。
───完───
* * *
源と渡兄ぃの旅模様の短編です。
「ももきね旅の草枕」
暖来良思 〜春きたるらし〜 加須 千花 @moonpost18
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