第6話 高嶺の花は、外見が美しいだけじゃない。

 今、食卓には高嶺の花が作ってくれた肉じゃがと、俺の好きな子が作った肉じゃがが並んでいる。俺はなんて贅沢なんだろうと思うけど、見る人が見れば浅丘が作った肉じゃがの方が、食材の形も色合いも整っていて、良く味が染み込んで、美味しそうに見えるかもしれない。


 それをすみれと一緒に食べた。


 すみれが作ってくれた肉じゃがは、もちろん美味しい。けれど浅丘がくれた肉じゃがは、ほくほくに柔らかくなったジャガイモに、肉と調味料の甘味がよく染み込んでいて、格別だった。


「……浅丘さんの方が……おいしい」


 ボソッと呟いたすみれの目には、少し涙が浮んでいた。


「……でも、すみれが作ってくれた肉じゃがも、美味しいよ?」


 俺のその言葉に嘘はなかった。けれど。


「うそつき。匠君本当はニンジン好きなくせに、さっきニンジン嫌いとか言ったもん。私に気を使ってくれてるんでしょ?」


 すみれはちょっと拗ねてそんな事を言い出した。


 高嶺の花は拗ねても可愛いとか、反則じゃないだろうか。けれど今はそんな事を思っている場合じゃない、ちゃんと弁解をしなくては。

 

「違う。俺は嘘なんてついてない。もちろん浅丘の肉じゃがも美味しいし、すみれが一生懸命作ってくれた肉じゃがだって美味しい。ニンジンクッキーは……俺が子供の頃あまりにも野菜を食べないから、母親がこれなら食べるからってよく作ってくれてたんだよ。それを幼馴染の隆元がちょっと間違って覚えてたままルームシェア相手の浅丘に伝えただけで……」


 なんとか分かって欲しくて必死に伝えた。


「ほんと? ……そっか。じゃあ、うそじゃないって信じる。うそつきだなんて言って、ごめんね」


 素直に俺の言葉を受け入れて、まだ残る涙で潤んだ上目遣いで俺を見つめるすみれは、やっぱり可愛くて。


 本来なら、好きな子がくれた美味しい料理とお菓子に、有頂天になりそうなものなのに、俺の心はすっかり目の前のすみれに奪われてしまっていた。


「いや。信じるって言ってもらえて正直嬉しい。……たぶん、クッキーならニンジン嫌いなすみれでも美味しいと思うから。すみれも食べてみて――」


 目の前のこの子に、信じたその気持ちは正しかったって思って欲しくて。俺はすみれにクッキーを薦めた。


 するとすみれは素直にそれを口にして……


「ほんとだ。おいしい。……明日浅丘さんにちゃんとお礼言わなきゃ」


 そんな事を言うから。


 高嶺の花だと称されるすみれの、内面の素直さにグッと俺の心が奪われたのを感じた。

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