第7話 高嶺の花は俺に撫でられたいらしい。
「あーお腹いっぱーい。美味しかったね!」
すっかり泣き止んで笑顔になったすみれと、手を合わせてごちそうさまをした。
すみれが作ってくれた晩御飯に加えて、浅丘が作ってくれた肉じゃがとクッキーまで食べたのだから、すみれがお腹いっぱいだと感じるのも無理はない。
「うん、美味しかった! 晩飯作ってくれてありがとう。洗い物は俺がするから、すみれはゆっくりしてて」
だからすみれにそう話しかけて皿をシンクまで持っていく。
するとすみれも隣に来て。
「私も手伝うよー。匠君だって、部活終わりで疲れてるでしょ? 一緒にしてさっさと終わらせちゃおー!」
にこやかな笑顔に、大きな瞳を輝かせながらそう言った。
そして、俺達は二人で一緒に洗い物をしながらいろいろな話をした。
ニンジンクッキー以外なら、どんなクッキーが好きかとか、ハロウィンの時にもらった変なお菓子の話とか、子供の頃はオバケを信じていて、本気で怖がった話とか。
話はどんどん派生していくけれど、どれも好みが似通っていて、楽しかった。さすがAIが導き出した相手なだけはある。
これだけ話が弾んで楽しいのなら……浅丘と隆元も楽しくやっているのだろうかとふと思った。けれど、それは考えないようにしてすみれの顔を見てみれば。
「なあ、すみれ、頭に泡ついてるぞ?」
「え、うそうそ、取って取って」
どういうわけかすみれの頭にはさっきの洗い物の時に飛んだのであろう泡がついていて。すみれはそれを取ってとばかりに俺に頭を差し出した。
それはまるで頭を撫でられたがっているような仕草に見えて。
泡くらい、自分でも取れそうなものなのにと思いながら、俺はその泡を取った。
するとすみれはへへっと照れ笑いをして。
「ちょっと、頭撫でられたみたいな気がして、嬉しい」
そんな事を言うから。
「……すみれは、俺に頭撫でられたら嬉しいの?」
つい、そんな事を聞いてしまって。
「うん。だから……いつかもっと仲良くなったら、匠君に頭撫でて欲しい」
すみれはそんな事を言うから、また、俺の心臓はグッと掴まれたような感覚になった。
――正直、泡がついていてもいなくても、撫でてと言われたら撫でたいくらいには、今の時点でもすみれとの距離感が近くなっている気がするけれど。
ふと浅丘の顔が脳裏に浮かんで、それを言ってしまいそうな自分の事を制止した。はずなのに。
「うん。俺もすみれともっと仲良くなりたい」
俺は十分それを受け入れる言葉を返していて。
「へへー。うん!! これからもよろしくね、匠君」
俺のその言葉だけで十分嬉しいとばかりに、すみれは子供みたいな満足げな顔をするから、俺の心臓はまた、グッと掴まれたような感覚になった。
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