第2話 高嶺の花とのルームシェア1日目。

「遠坂君、今日からよろしくね」


「ああ……こちらこそ、よろしく」


 割り当てられた新しい部屋に入って、ルームシェア相手となった、深山 すみれとありきたりな挨拶を交わした。


 正直、深山は高嶺の花と言われるだけあって、とても整った顔立ちをしている。けれど、今まで俺とはさほど接点がなかった。だから、どんな子なのかは分からない。


 何か会話の糸口を……その程度の軽い気持ちで聞いてみた。


「なあ……深山は嫌じゃないの? 男女でルームシェアなんて」


 すると深山の答えは意外なものだった。


「……好きな人と、接点が欲しかったから。何度もスマホのAIアプリで相性診断したの。そしたら結果はいつも遠坂君だったから……ペアになれるかもって期待してたんだ。そしたら本当に遠坂君が相手になったから、ちょっと……うううん、かなり、嬉しい」


「……え!?」


 深山のその言葉に動揺してしまう。まさか深山も俺達と同じことをしていたなんて。いや、そんなことよりも。深山の今の言葉……俺の事を好きってことだよな?


「あ……、遠坂君は、私が相手で……残念、かな」


「え、いや、そんな事はないけど……。その、深山がなんで俺とペアになれて嬉しいと思ってくれているのかが、ちょっと分からない。俺と深山って、今までさほど接点なかったじゃん?」


 すると俺の問いかけへの深山の答えに、妙に納得してしまった。


「……フィーリング、かなあ。感覚的に、この人は合う気がする、とか、なんとなく雰囲気が好きだなあとか、そんな感じ。だから、仲良くなって、この気持ちを確かめてみたかった」


 確かに深山は、学園のAIが導き出した俺と相性のいい相手なわけで。そして俺も、自分のスマホのAIアプリでは相性がいいとされていた浅丘に対して、同じような理由で好意を持っている。


 浅丘とは2学期の文化祭で接点があったから、この気持ちはやはり本当だと実感することがあったのではあるけれど。


 俺と隆元も、子供の頃からやけに馬が合うなと思って付き合ってるから、俺と隆元の相性のいいと思っていた相手がそっくりひっくり返ったのも、少し分かる気がした。


「そ、そっか。まさかそんな風に思われていたとは……」


 少し照れながらそう言った俺に、深山もまた照れながら言った。


「あの、えっと。もしよかったらなんだけど……、せっかくの機会だし、遠坂君ともっと仲良くなりたいから……匠君って、呼んでもいいかな」


「え……いいけど、じゃあ、俺はなんて呼んだらいい?」


「……すみれって、呼ばれたい」


「え、いきなり呼び捨て?」


「……だめ、かな。思い切って言ってみたんだけど」


 少し恥ずかしそうにする深山が可愛いくて。


「あ……じゃあ、すみれ?」


 照れつつも試しに呼んでみた。すると。


「はいっ」


 照れながら嬉しそうに瞳を輝かせるすみれが、可愛いなと思った。

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