第3話 どうやら俺の好きな子は俺の事が……好き?

「なあ、匠。ルームシェア1日目はどうだった?」


 次の日、学校に着くなり幼馴染の隆元はそんな事を言ってきた。


 まさか言えるはずがない。隆元が一緒に暮らしたがっていたすみれは、俺の事を好きだった、だなんて。


「あーいや、別に。普通?」


 だから、当たり障りのない返事をした。すると――


「そっか。俺のルームシェア相手の浅丘なんだけどさ。どうやらお前の事好きっぽいぞ?」


 こちらもまさかの言葉を言ってきた。


「え! うそ、マジ!?」


 俺は思わず興奮してしまう。俺の好きな子が俺の事を好きかもしれないだなんて、こんな興奮せずにいられないことがあるだろうか。


「うん。マジ。だって浅丘、俺が匠の親友だからって、匠の事ばっかり聞いてくるんだもん。匠君の好きな食べ物はとか、匠君の好きな色はとか、――匠君の好きなタイプはどんな子かな、とか」


「それで!? なんて答えたの」


 だからつい食い気味で聞いてしまう。


「匠はニンジンクッキーが好きで、色は赤が好きで、たぶん花が似合うような可憐な清楚系の子がタイプだって言った」


「……は? 俺がいつニンジンクッキーが好きだなんて言ったんだよ」 


「子供ん時、野菜嫌いなお前のためによく匠のお母さんがニンジンクッキー作ってたじゃん? 俺、あれ好きだったんだよねー。昨日、浅丘が作ってくれた肉じゃがに入ってたニンジンがうまかったから、つい思い出してしまって」


 隆元は悪気のない顔をしてそんな事を言う。けれど、俺にとってはもはや大事なのはそこじゃない。


「それじゃお前の好きなものじゃねぇか! いや、それよりちょっと待て、隆元、浅丘の作った肉じゃが食べたのか!? 俺、ニンジンクッキーよりそっちの方が食べたいわ!!」


 くそう。隆元のやつ。羨ましい……浅丘の手料理食べたのか。


「いや、浅丘の作った肉じゃが、めちゃくちゃうまかったけどさ。……俺はお前が羨ましいよ。深山とルームシェアとか俺がしたかったわ。やっぱり相手交換しようぜ?」


「――ばか。だからそれは無理だって」


 言いながら、浅丘の作る肉じゃがはめちゃくちゃうまいんだとの追加情報に、やっぱり俺は隆元が羨ましくなるのだった。


(せめて今日は肉じゃが食べたい。誰が作ったものでもいいから――)


 そう思った時、ちょうど俺のスマホが短く震えた。それはすみれからのラインだった。


『匠君、今晩何食べたい?』


 だから思ったままを返信した。


『肉じゃが食べたい』

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