第4話 高嶺の花のエプロン姿。
「あ、匠君! おかえりなさーいっ」
すみれと暮らす部屋に帰ると、エプロン姿のすみれが嬉しそうに玄関に駆け寄ってくれた。
部屋の中からはいい匂いがしている。この匂いは、たぶん俺がリクエストした肉じゃが。
「ただいま。ごめんな? 俺が部活あるからってすみれにご飯作ってもらって……」
「いえいえ。それより見てみて! エプロン、張り切って新しいの買ったんだー。可愛いでしょー」
すみれはにこにこしながらエプロンの裾を持ち上げた。
……さすが高嶺の花だと言われるすみれ。普通に可愛い。めっちゃ可愛い。そんな子がエプロン姿で玄関まで出迎えてくれるとか……男なら誰でも惚れてしまうんじゃないだろうか。
自然に湧いたその気持ちを、俺は慌てて否定した。
(おいおい、待て。俺の好きな子は浅丘で、もしかしたら浅丘も俺の事を好きかもしれないんだ。いくらすみれが可愛いからって、ころっと寝返ったりするんじゃないぞ)
心の中ではそう思うのに。
「あ。うん。可愛い。さすがすみれ。何着ても可愛い」
俺の口は恥ずかしげもなく、思ったままの言葉を言っている。
「へへー。嬉しい。ね、ね、匠君、お腹すいてる? ご飯にしよー? レシピ見ながらだけど、頑張って作ったんだよ、肉じゃが!」
やっぱりすみれは嬉しそうで。わざわざレシピ見ながら俺のリクエストしたものを作ってくれるとか……やっぱり可愛すぎないか、そう思った。
身支度を整えて、すみれと向かい合っていただきますをした。
するとすみれは俺が食べる様子を子供のような顔でじーっと見つめている。
その視線に少し緊張しつつ、一口食べてみた。
「うん! 美味しい! すみれ料理上手じゃん!」
正直ジャガイモは少し硬かったけど、なんせ俺は部活終わりの腹ペコ状態。しかもそんな俺が帰宅するタイミングに合わせて俺がリクエストしたものを作ってくれたという嬉しさと有難さが、うまさを倍増させた。
「よかったあ。お料理はまだ慣れてないから、もうね、計量カップとにらめっこしながら分量ぴったりに作ったんだ」
すみれはまた屈託のない笑顔でそう言った。その健気さと表情に、やっぱり俺のルームシェア相手は最高に可愛い。そう思えて仕方がなかった。
「でも、なんでこんなにニンジン小さいの?」
けれど他より明らかに細かく刻まれたニンジンに、そんな疑問が浮んだ。
「実は私……ニンジン苦手なんだもん。小さくした方が食べやすいかなって思って」
すみれはてへっと笑ってみせた。
「え、マジ? ニンジン嫌いなの、俺も一緒! 小さくなってるから食べやすいよ!」
少し高嶺の花に、親近感を覚えた瞬間だった。
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