第5話 好きな子が手料理を差し入れしてくれた。

 ――ピンポーン 


 すみれとの話に花を咲かせながら楽しく食事をしていると、インターホンが鳴った。


(なんだよ。今楽しくメシ食ってたのに)


 少しそんな事を思いながら玄関の扉を開けると、そこにいたのは浅丘だった。


「あれ? どしたの浅丘?」


「あ、ごはん中だった? ごめんね。もう遅いかな。せっかくお隣になったから、お裾分け持って来たの。昨日作り過ぎちゃった肉じゃがと、余ったニンジンで作ったニンジンクッキー。桑田君から、匠君がニンジンクッキーが好きって聞いたから……」


 少し頬が赤くなってるように見える浅丘は、いかにも清楚系というような花柄のワンピースに花の髪飾りをつけて、赤い紙袋に入った肉じゃがとクッキーを差し出した。


「え、マジ? わざわざありがとう!」


 お礼を言いながら、思わず頬がにやついてしまう。まさか俺が食べたいと思っていた浅丘の手料理を、浅丘本人が手渡しに来てくれるなんて。しかも、浅丘が隣の部屋だなんて。気付かなかったけど、正直嬉しいなと思う。


「目分量で作ったから、お口に合うといいんだけど……私、料理は子供の頃からしてるから、割と好きなんだ」


 だから、有頂天になっていたのかもしれない。


「浅丘、料理得意なんだ!! じゃん。ありがと、有難く頂くよ」


 何も考えずにテンションの上がった大きな声で、思ったまんまの言葉を俺は口にしてしまった。


「……すみれ? ……あ、匠君、もう深山さんのこと呼び捨て呼びなんだ。仲、いいんだね。……いいな。羨ましい」


 瞬間にしてしょんぼりとする浅丘と、そして――


『目分量……とか、すごい……』


 すみれの小さな声が玄関先から聞えて驚いた。


 俺はつい、インターホンが鳴って玄関から出てきてしまったけれど、俺達が住むことになったこの部屋は、対話が出来るタイプのインターホンがついていて、スイッチが入ったままだったようだ。


 だから玄関先で浅丘としていた会話は、部屋の中にいるすみれにも筒抜けだったらしい――。


(俺……もしかして、やらかした??)


 そう気づいた時にはもう遅い。


「あ……。深山さんにもよろしくね。じゃあ、また、学校で……」


 少し寂しそうに笑った浅丘を見送って、部屋の中に帰ってみると、すみれも少し悲しそうな顔をしているように見えた。



「匠君……ニンジンクッキー好きなんだ。じゃあ、本当はニンジンも好き? 浅丘さん、目分量でお料理出来るなんてすごいね」


「え、えっと……」


 俺はその言葉への正解が分からなかった。

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