第8話 虐殺者と被害者

 領主の息子御曹司の、その妻子を確保。現在、獣人4名、妻子、我ら師弟とデカカエルの計9人でダンジョンの出口手前で待機している。

 外に刺客が張り込んでいるのは明らかなので、突破の為の準備中。ついでに乙女ちゃんに魔法についてレクチャアするか。


 戦闘に不慣れなのは仕方ないとして、魔法少女に関する知識もまるでないのには驚いた。チュートリアル期間とかどうしていたのだろうこの子は。


 獣人たちとの擦り合わせ中に気付けて良かった。



「試しにモンスターを召喚してみるよ」



 魔法少女の身分証明書、スマートホン薄い本の形をとる《契約の魔道書》を開き、ページをスクロールして魔法の巻物スクロールを表示する。



「召喚・我武者羅」



 スクロールに記された、広げた翼の様な文様が輝き、小鳥のモンスターが召喚された。



「かぁー!かぁー!」


「この子はガムシャラ。レベル1の雑魚モンスさ」


「かぁ!?」



 ガムシャラ、何か驚いてる。厳ついお姉さんばかりいてビビったのだろうか?



「ああ!そ、その鳥さん、隊商を守った!?さっきも暗殺の人を吹き飛ばしてましたよね?あんな事しておいて、雑魚モンスターなんて嘘です!」


「かぁ!」


「ふむ、そうだな、今朝渡した包みがあるでしょう。あれをガムシャラにぶつけてみて」


「かぁ!?」


「え、でもこれは。わかりました。えい!」



 迷いなく紙包みを投擲した乙女ちゃん。包みは緩い放物線を描きガムシャラの顔面に直撃。べちょりと地面に落ちた。



「かぁぁぁぁぁ」


「おお、モンスターが軽い投擲で大ダメージを。いったいどんニャ魔法の武器が入っているのニャ」


「いや、それは今朝買ったパンだよ」


「ほ、砲丸パン。固い固いと評判でしたが、聞きしに勝る、まさに砲丸!」



 乙女ちゃんが砲丸パンに戦慄している。おののく所はそこじゃない。



「いや、流石にそこまでは固くないウサ。そのモンスターが、余りにも弱い、いや、柔い・・のだろウサ」


「ご明察」



 ウサギのお姉さん、ギロチンゼラチンがフォローを入れてくれた。そう。パンがヤバいのではない。ガムシャラがヤバいのだ。



「モンスターなのに、パンがぶつかった位で大ダメージを受ける。本物の小鳥かそれ以上に脆くて弱い雑魚モンスなのさ」



 パンとガムシャラを拾いあげ、回復魔法をかけてやる。途端に元気に飛び回るガムシャラ。0階級の私の魔法でも全快するくらい、低い体力のモンスターなのだ。む、パンもなんだか焼きたての様にツヤツヤに?回復魔法おそるべし。



「でも、脆弱だからこそ、この子はモンスターの大群だって全滅させられる可能性を秘めているのさ」


「な、なんと、凄いです師匠!ガムシャラさん!」


「クァ、クァ、クァ!」



 ガムシャラ。胸を張って偉そうである。



「この子みたいな特殊なモンスターのおかげで、0階級の私でもこうして冒険者の仕事が出来ている。見てごらん」



 私の薄い本スマートホンを乙女ちゃんに見せる。ガムシャラを示してる紋様の横にHPという文字と、横に伸びたバーが記されていた。



「それは打撃点ヒットポイント、または生命点ヘルスポイントと呼ばれてる。数字が0にならない限り、召喚したモンスターがこの世界に存在できる保障のようなものだよ。えいっ」


「カァー!?」



 ガムシャラを砲丸パンで殴ってから、薄い本スマートホンを再び見せる。表示されたバーは急激に減少。HPが1だけ残る。



「くぁくぁくぁ!」



 ガムシャラ、抗議するように元気に飛び回っている。見た目はボロボロだが。

 召喚されたモンスターは、こんな風にどんなに傷ついても、HPが0にならない限りベストコンディションで動けるのだ。



「ぜ、0になったら死んでしまうのですか?」


「0になっても再び召喚してしまえばモンスターたちは元通りの姿で復活するよ」



 そのため、召喚されたモンスターは、不死の存在がこちらの世界に来るためにダウングレードした姿、偽りの生命体、影法師の様なもの、と予測している魔法少女もいる。



「だからこういう戦い方ができる。虎口同等ここどら、発動」



 薄い本スマートホン内のガムシャラを示す紋様に触れ、《スキル》欄を追加表示、虎口同等ここどらを選択する。

 スキルとは、我々魔法少女で言うところの魔法のような、召喚モンスターが持つ特殊能力のことだ。

 スキル欄によると、虎口同等ここどらは対象とガムシャラの『HPを同じ値にする』スキルと説明されている。



「つんざけ ガムシャラ」



 かあ かあ かあ


 だがそのスキル説明は、対象が同じ召喚モンスターである場合適用される効果だ。



「なにこれ?体が」



 至近距離で鳴き声を聞いた乙女ちゃんがまずその効果を知る。

 続いて獣人たちに御曹司の妻子、そして外で待ち構えていた刺客たちに届いた。



「HPという値が存在しない現実の生命体には幻覚、痛みや疲労感として反映されるみたいでね。あとはこうやって、独り動けるガムシャラがゆっくり始末していく」



 ほのぼのとした作業風景である。


 ついばめ ガムシャラ

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