第3話 千日紅と獣人

「羽?ですか」


「ああ、放熱板だよ乙女ちゃん。獣人は長時間全力で動くと体に熱が回って参っちゃうのさ。文化的に剃毛がNGな部族なんかは、放熱板一択だね」


「ニャたし達のこと、良く知ってるニャ。ちっちゃい方の嬢ちゃん」


「森田千日紅ちかくだよ」


「うん。よろしくニャ。ちっちゃい方の千日紅ちかくちゃん」


「むぅ」



 ダンジョンに潜る為、冒険者を雇った。強い前衛として獣人の冒険者を4人ほど。


 高い買い物だったが、欲しいもののためには仕方ない。あ、今のうちに聞いておこう。



「あれ、そういえば、この領地って獣人の弾圧始めてなかった?」


「始めてるよ。この都市とその周辺だけは特区。ってことになってるのウサ。領主の息子御曹司のお陰で獣人でもシノギが出来る。ありがたい話ウサ」


「さっさと代替わりしてほしいワンね」


「無理でチュね。ほっとけば100歳は生きそうでチュあの領主サマ」



 ふぅん。じゃあ違うか。



「ううう。可愛い口調なのに、見た目と声は見惚れる様な大人のお姉さんたち!脳が虫に食われバグりました!これがカルチャーショック……ッ!?」



 乙女ちゃんの様子がおかしい。ダンジョンは、というかまともな戦闘は今回が初めてだもんね。そりゃ緊張するか。



「じゃあみんな。ダンジョンに潜ろうか」



 お金を稼がないと、赤字になっちゃうからね。




「ぷぅー?ごぷー!」


「私みたいな0階級の魔法少女だと、ゴブリンも一苦労だよ」



 ゴブリンのギョロリと大きな瞳に氷の魔法を当て、その隙に杖を喉奥に押し込みぶち転がす。


 まともな使用で殺傷力持たせられるのは1階級から。0階級は、成り立ての小さい子供へのセーフティなのか、使える魔法は著しく弱い。



「こ、この真ん丸お目目の妖精さんがゴブリンなのですか?絵本と全然ちがう」


「邪悪で妖しくとも、精霊だからね。見た目だけは可愛いのウサ」



 兎獣人のギロチン・ゼラチンが、頸椎折るのに忙しい私の代わりに、乙女ちゃんへとレクチャアしてくれてる。



「おじょウサん。生き物を殺したことは?」


「この都市に来る前に、隊商の護衛依頼で猪を何頭か」


「初めてじゃないなら大丈夫ウサ。はずみさえつけば慣れウサ慣れ。ほら、あそこの一匹やっちまいな。魔法来るよー!退避ー!」


「退避良しニャ!」


「は、はい!アイススワロー!」



 肌を切り裂く様な冷気が吹き抜け、驚き振り返る。


 体のひねりを利用してゴブリンの首を折りながら、冷気の行方へ目を向けると、100歩ほど遠くにいた別のゴブリンが、比喩ではなく文字通り肌を切り裂かれズタズタになって倒れていた。


 素材として使い物にならなそうだが、ふむ。ここは師匠らしく、誉めて伸ばそう。



「さすがは二階級の魔法少女。段違いだね」


「こ、光栄です。でも威力が過剰すぎましたね。次から出力絞ります。あ、奥から新手!魔法撃ちます!退避!」


「退避良しニャ!」


「アイススワロー」


「ぷぷぅー!?」



 うむ。次はキレイに仕留めたな。何か、初めてのパーティー戦闘なのに連携もバッチリだし。あれ、これ、私要る?

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