第5話 魔法少女と策士

「にゃんだよーもうー。味方なら最初から言ってよ」


「私、最初から言ってたよ」


「皆さんのやり取りみてて、絶対に誤解が生じてると思いました。割って入って本当によかったです…!」



 行商のおじいちゃんの依頼で最近この街に来たばかりのこと、その信頼あついこと、魔法少女が持つ《契約の魔道書》に自動筆記されるりざると?も証拠に交えて乙女ちゃんが仲裁をしてくれた。


 獣人たちは矛を納め、縦横無尽に飛び回っていた猫獣人キキキの放熱板モドキも、今は背中に付け直している。


 乙女ちゃんが居てくれて良かった。無益な争いが一つ減った。



「じゃあ、千日紅さんは砂糖卸緒類群スイーツの武装商人さんが回してくれた戦力なのでチュね」


「あ、いや、」


「むぎぎぎぎぎ」



 訂正しようとして、乙女ちゃんの物凄い視線を感じて黙る。



「ああ、そこら辺曖昧にしニャいと都合悪い感じ?」


「うん、まあ」



 言葉を濁していると、勝手に勘違いしてくれた。むう、これが沈黙は金、か。



「むふんむふん」



 良くできました、という笑みでこちらを見てくる乙女ちゃん。ぐぬぅ。私は師匠なんだぞ。



「さて、熱も下がったし、そろそろ行きまチュよ」



 獣人一行のリーダー格、鼠獣人の猪屠権屠猪ちょさくけんフリィが声をかけ、各々が支度するなかで、



「なるほど、確かに敵じゃないんだらろウサ。でも、それだけだ」



 一人、兎獣人ギロチン・ゼラチンだけが待ったをかけた。


 爆薬と山刀のエキスパートである彼女はそれらを用いて、乙女ちゃんどころか仲間の獣人たちさえ牽制して私を押さえ込む。



「ウサギってのは臆病だからね。氏神トーテムがウサギである私も、危険には敏感なんだ。なるほどあんたは敵じゃない、でも何か、大きなものを隠している」



 それを言いな。と脅しをかけるギロチンゼラチン。



「無理だよ。あなたは、例えどんな目に遭っても子供は殺せない」


「試してみる?」


「無理無理。にっくき人間の子供でも、あなたは土壇場で躊躇うよ。手汗で湿気シケッて、山刀はナマクラ、火薬は不発さ」


「露悪的なガキは嫌いだね。兎っ狩り首を刎ねちまいそうになる。自分を人間だなんて、侮蔑する言葉をよくも吐ける」


「侮蔑じゃなくて事実だとおもうけどね。獣人に比べて体毛が少ないのも、神に見放されたって宗教観も、なるほど、人と」


「千日紅さん!言葉が過ぎます!」



 首に刃が置かれているので振り向けないが、乙女ちゃんがどうも怒ってるみたいだ。



「言葉を取り繕っても意味はないよ。『どんな名前であっても、薔薇の花は良い香りがするもの』なように。悪意があれば、美辞麗句だって罵詈雑言に変わるよ」


「あなた一流の哲学をご教授くださって結構。あなたに悪意がなくても、あなたが人間と発言した事に別の意味を持たせる人だっています。そうでなくても人は簡単に間違う。誤解する。無駄に敵を作る必要ありますか?現にあなた、振る舞いや言葉選びが下手すぎて、獣人のみなさんと衝突しました。何ですか。魔法でこっそり熱中症にするとか。害意があると思われても、いえ、既に害しています。死んだり、後遺症の可能性もあったんですよ!」


「まあまあ。子供のする事だし、間違うこともあるだろウサ」


「ほら見てください!彼女たちは自分たちへの危害を勘定にいれていません。匿っている子供の為だけにいま疑っているのです!これ程の善意の方たちに、あなたは何をしているのですか!」


 ギロチンゼラチンがすまなそうにこちらを見た。うん。何を言っても矛先が私に向くね。



「確かに、乙女ちゃんの言う通りだ。まず私は謝るべきだったね。攻撃してごめんなさい。皆さん」


「はあ。わかった。信じるよ。脅して悪かった。お嬢サん」


「仲直り出来て良かったです」



 ニコニコの乙女ちゃん。もしかして、この場の誰よりもぶちギレる事で騒動を強引に流したのだろうか?


 疑いの目で見つめていると、目が合った彼女は一瞬固まった後、ウィンクで返してきた。むう。善良なだけでなく頭も回るのか。恐るべし、我が弟子。

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