後藤雄大1

 翌日、涼太君の運転する車で私達三人は雄大君の実家へ向かった。雄大君は、例の事件が起こる数か月前まで、東京に住んでいた。現在は、実家に戻って親の仕事を手伝っているらしい。

 それにしても、沙霧さんと涼太君はわかるが、何故私もいるのだろう。まあ、私も久しぶりに雄大君に会いたいと思っていたからいいけど。車の外の景色を眺めながら、私は小学生の頃を思い出していた。


 雄大君は、一言で言うとガキ大将のような子供だった。私達を引っ張っていくリーダーシップのある男の子。

 私達の誰かが上級生に虐められていたら、真っ先に駆け付けて助けてくれるような優しい一面もあった。


 雄大君の家に近づいた時、家の門の辺りで誰かが揉めているのが見えた。一人は、灰色のパーカーを着た二十代後半くらいの男性。もう一人は、黒い半袖のTシャツを着た、同じ位の年代の男性。体格が良く、短い金髪の彼には見覚えがある。雄大君だ。


「だから、知らねえっつってんだろ!帰ってくれよ」

「本当だろうな?サツにチクったりしたらただじゃおかねえからな」

不穏な会話が繰り広げられている。


「雄大君、久しぶりだね。何の話をしてるのかな?」

 穏やかな声で話しかけながら、涼太君が二人に近づく。

「あ?何だ、お前」

 パーカーの男が涼太君を睨む。

「僕は、そこにいる雄大君の友人です。すみませんが、どういった事情で揉めているのか教えて頂けませんか?」

「てめえには関係ねえよ。俺は雄大に話があるんだ、どいてな」

 パーカー男が涼太君の胸を押そうとしたが、涼太君はすっと避けた。それがパーカー男の逆鱗に触れたらしい。

「てめえ、調子に乗んなよ」

パーカー男が涼太君に殴りかかろうとした。


 しかし、涼太君はあっという間にパーカー男の腕を捻り上げると地面に組み伏せた。そして、パーカー男の左腕の袖を捲り上げた。

「ああ、やっぱり」

 パーカー男の左腕には、注射を打ったような痕があった。麻薬を打った痕というやつだろうか。ドクロの形のタトゥーも見えている。

「こんなに暑いのに長袖を着ているから、変だと思ったんだ。……悪いけど、連行させてもらうよ。僕は一応『サツ』の人間なんでね」

涼太君が、笑顔で言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る