小峰涼太2
美也子が自分の客室に戻り、部屋には涼太と沙霧の二人だけになった。
「……沙霧さん、最初から僕に期待していたんですか?」
「んー、まあね。事件解決の糸口くらいは掴んでくれるんじゃないかと。まさか、本当に解決するとは思わなかったけど」
「夏希ちゃんが誰かにお金を貸していたとか嘘までついて、僕を引っ張り回すとは……」
「ばれてたか」
「……どうして僕だったんですか?」
「涼太君、昔、美鈴ちゃんの冤罪を晴らした事があったって聞いてたからね。それに、普段から見ていて、泣き虫だけど賢くて芯が強い所があると思ってたから」
小峰涼太は小学生の頃、勉強はできたが運動はからきし駄目で、皆が走り回って遊んでいると、待ってよと言って一番最後を走っているような少年だった。そして、転んだり雄大にからかわれたりすると、すぐ泣いていた。
ある時、教室の花瓶が何者かに割られるという事があり、美鈴が疑われた。しかし、涼太は諸々の状況から、花瓶を割ったのが野球をして遊んでいた上級生だと見抜き、先生に告げて美鈴の冤罪を晴らした。
「涼太君には一目置いていたけど、警官になるなんてねえ」
「花瓶の事件の後、ある子に言われたんですよ。『涼太君、テレビの刑事さんみたいでかっこいい。将来刑事さんになればいいのに』って」
「それだけで?」
「それだけです」
皆は泣き虫涼太が刑事になんてなれっこないと言っていたが、その子だけは真剣な顔でなれるよと言っていた。涼太の可能性を信じてくれる事が、嬉しかった。
「美也子ちゃんも罪な女だねえ。人一人の人生決めておいて、自覚が無いんだから」
「何で名前を言うんですか。ぼかしてたのに」
涼太は苦笑した。
翌朝、私は駅のプラットホームにいた。出勤前の涼太君が見送りに来ている。
「じゃあ、またね。涼太君」
「うん、また」
電車がホームに滑り込み、私は電車に乗り込む。
「……美也子ちゃん」
涼太君が真剣な表情で口を開いた。
「僕が早く大人になりたかったのは、好きな子を……君を、守れる人間になりたかったからなんだ!」
その直後、電車のドアが閉まった。
電車が動き出し、思考が停止したまま私は座席に着いた。涼太君の言葉を頭の中で反芻する。言葉の意味を実感した途端、世界の色が変わったような気がした。
涼太君と連絡先の交換はしている。今度涼太君と話す時、何をどう話せばいいのか、私はずっと考えていた。
私の知らない夏 ミクラ レイコ @mikurareiko
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