私の知らない夏

ミクラ レイコ

新見夏希1

 ふと目を開けると、私は乗客もまばらな電車の中にいた。アナウンスを聞くと、どうやら乗り過ごしてはいないようだ。

 目を窓に向けると、野原や廃屋ばかりが見える。しばらく景色を見ていると、遠くに海が見えてきた。もうすぐ、あの村に着く。


 駅に到着し、古くて小さい駅舎を出ると、側に白いワゴンが駐まっていた。

「あの、もしかして、篠宮さんですか……?」

ワゴンから出てきた中年の女性が、自信なさげに私に声を掛ける。

「はい、篠宮美也子です。……お久しぶりです、雪絵おばさん」


 中年女性、いや、雪絵おばさんは、ぱっと顔を明るくした。

「やっぱりー。美也子ちゃん、別嬪さんになったねえ。ほら、荷物持ったげるから早く乗って」

雪絵おばさんは、私の反応を待たずに旅行用のバッグを私から奪い取ると、ワゴンの後ろに詰め込んだ。雪絵おばさんは、私を迎えに来たのだ。


「東京からこっちに来るのは疲れたでしょう。うちに着いたらすぐ部屋に案内するからね」

「ありがとうございます」

二人きりの車内で、雪絵おばさんは村の近況等をずっとしゃべっている。私とは違うタイプの人だが、嫌いではない。


「美也子ちゃんももう二十四歳か……。うちの子達と遊んでた頃が懐かしいねえ」

私は小学校を卒業するまでこの村で育った。その後父親の仕事の都合で引っ越し、今は東京の出版社で働いている。そして、今回お盆休みを利用して、村に四日ほど滞在する予定である。

 小学生の頃、私はどちらかというと大人しいタイプだったが、それでも同級生五人と仲が良かった。その中の一人が、雪絵おばさんの息子である小峰涼太。

「一年前も、私が入院してなかったら美也子ちゃんと会えたんだけどねえ。……まあ、会ったとしても、再会を喜べる状況じゃなかったけど……」


 一年前も、私はこの村に来ていた。その理由は、告別式に出席する為。亡くなったのは、私と仲が良かった同級生五人の一人、新見夏希。殺人事件だった。夏希ちゃんは大学卒業後東京で働いていたが、夏休みにこちらに帰って来ている時に殺害されたのだ。

 夜中に神社で殺害されたと思われるが、犯人はまだ、捕まっていない。ナイフのようなもので胸を刺されたと思われるが、凶器も見つかっておらず、手掛かりが極端に少ないという事だった。

 しんみりした空気になり、雪絵おばさんの口数も減っていた。


 ワゴンが民宿の前に駐まった。小さな古い民宿で、元は真っ白だったはずの壁がクリーム色に見える。この民宿は、雪絵おばさんの夫である小峰慎太郎と雪絵おばさんの二人が切り盛りしている。

 私を部屋に案内しながら雪絵おばさんが言った。

「涼太も夜には帰ってくるよ。涼太、何も言わないけど、美也子ちゃんと会うのを楽しみにしてると思う」

それが本当なら嬉しい。でも、それは友人としてだろう。眼鏡を掛けて髪をお団子にしただけの地味な私に、涼太君が惚れるとは思えない。


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