新見夏希2

 その日の夕方、私が民宿の食堂のようなスペースで夕食を取っていると、玄関の引き戸が開く音がした。

「ああ、来てたんだね。美也子ちゃん、久しぶり」

 そう言って私に優しい笑顔を向けたのは、先程も話題に上がった小峰涼太。涼太君も眼鏡を掛けているが、よく見れば整った顔立ちをしている。少し癖のある短めの黒髪も変わらない。


「涼太、あんたが美也子ちゃんに会いたがってたって言っておいたからね」

「勝手にバラさないでよ、母さん」

 涼太君は、あまり動揺していない様子で苦笑する。そして、私の方に向き直った。

「……明日、墓参りに行くの?」

「……うん」

「明日、僕は休みだから、乗せていくよ。一緒に行こう」

「……ありがとう」

 涼太君は、警官となって交番に勤めている。


 私達が話していると、玄関の引き戸が勢いよく開かれた。入ってきたのは、迷彩柄のタンクトップに薄手のジャケット、ジーンズを身に着けた女性だった。セミロングの髪は金色だが、れっきとした日本人だ。


「美也子ちゃんに涼太君、久しぶりだね」

 そう言う彼女は、夏希ちゃんのお姉さんである沙霧さん。現在二十九歳で、海外で美術関連の仕事をしていると聞いている。

「沙霧さん、お久しぶりです。どうされました?」

涼太君がにこやかに聞く。沙霧さんは、急に真顔になると、涼太君に顔を近づけた。

「実は、折り入って頼みがあって……。そうだ、美也子ちゃんにも聞いて貰おう」


 民宿の一階に、小峰家の自宅部分がある。そこにある涼太君の部屋に、私達三人は集まった。

「実はね、夏希、亡くなる数日前に、誰かにお金を貸してたみたいなの。十万円ね。でも、借用書を作ってなかったみたいで、誰に貸したかわからないの。それで……涼太君、夏希が誰にお金を貸したのか、私と一緒に調べてくれない?」

沙霧さんの言葉に、涼太君は、困ったような顔をした。


「それは……交番勤務の僕に言うより、警察署で相談した方がいいんじゃないですか?お金を貸したのが亡くなる数日前なら、事件の動機に繋がるかもしれないですし」

「一年前に、警察署で相談したわよ。でも、何もわからないまま」

「そうですか……。でも、どうして今また調べる気に?」

「……実は私、金欠なの」

 つまり、夏希ちゃんの代わりに債権を回収しようと言うわけか。


「……それと、私、夏希がお金を貸したのは、夏希と仲が良かった五人の中にいると思ってる。夏希は、おいそれと人にお金を貸す子じゃなかったし」

「僕もその五人の中にいるんですが」

「涼太君しか頼れる人がいないから、涼太君は例外とする」


  じゃあまた明日と言って、沙霧さんは帰っていった。

「……いいの?涼太君、引き受けちゃって」

 玄関で、私は涼太君に聞いた。

「……まあ、一人で暴走されるよりは、僕が側にいた方が……」

「……ああ……」

 涼太君は、警官としてではなく、あくまでも夏希ちゃんの友人として沙霧さんに同行する事にしたようだ。

「明日は、久しぶりに雄大君に会う事になるのか……」

 涼太君が呟いた。沙霧さんによると、事件の三日程前に夏希ちゃんは、雄大君と会ったと沙霧さんにメールをしていたらしい。雄大君とは、同級生六人組の中の一人、後藤雄大である。


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