関谷学2

「沙霧さん、美也子ちゃん、そろそろお暇しましょうか。……学君、今度機会があったら、もっと夏希ちゃんの話を聞かせてよ。学君が良ければだけど」

 涼太君が言うと、学君が不思議そうな顔をした。

「……何だか、僕が特に夏希と仲が良かったように聞こえるけど、どうして……」

「……ああ、特に根拠という程のものは無いんだけど……」

 涼太君が、気まずそうにしながら話した。

「小学生の頃は夏希ちゃんって呼んでたのに今は夏希って呼び捨てにしてるし、親友とはいえ、しばらく会ってなかったはずの学君に、夏希ちゃんがわざわざ仕事を紹介してるし……。それと、その置時計、夏希ちゃんの影響なんじゃないかなって……」

 涼太君が指さした先には、黒猫がデザインされた置時計があった。


「……凄いな、涼太君は。うん、僕と夏希は付き合ってた。付き合い始めたのは、夏希が大学を卒業した頃だから、期間は長くは無かったけど」

「どうして私に言ってくれなかったの?」

 沙霧さんが口を挟んだ。

「付き合ってるって言っても、僕がこんなんだから、電話やメールでやり取りしてただけだし、大切な妹の恋人が引きこもりとか、沙霧さんに言いづらいでしょう。……それに、夏希が僕と付き合ったのは、僕に負い目があったからかもしれないし……」

「どういう事?」

「……僕が中学の時虐められてたのは知ってますよね?……虐められたのは、元々虐められてた夏希を僕が庇ったからなんです。……だから、僕に告白された時、夏希は断れなかったんじゃないかって……」


「そんな事ない!」

 沙霧さんが語気を強めて言った。

「虐めのきっかけ云々は知らなかったけど、夏希、学君の事を『私のヒーロー』って言ってた。冗談めかして言っていたけど、あれは本気だった。見てれば分かる。夏希は、本気で学君に惚れてた」

 沈黙が流れた。いつの間にか、学君の目からぼろぼろ涙が零れていた。

「……そうか……そんな事言ってくれてたんだ……」


 私達三人は学君の家を後にすると、民宿の涼太君の部屋に集まった。

「結局、雄大も美鈴ちゃんも学君も、お金を借りてなかったみたいね」

 沙霧さんが天を仰いで言った。私は尋ねる。

「これからどうするんですか?」

「もう一人に話を聞く」

 沙霧さんは、テーブルに腕を乗せると、真剣な表情で私を見た。

「事件の前後に夏希と会っていたのは、あの三人だけじゃないよね……ねえ、美也子ちゃん」

 そう。私は、事件が起こる一週間くらい前に、東京で夏希ちゃんに会っていた。


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