広岡美鈴2
美也子達三人が車に戻る際、美鈴は玄関まで見送りに来た。
「涼太、少し話があるんだけど、いい?」
美鈴が涼太を呼び止めた。美也子と沙霧を車に残して、涼太は庭に移動した。庭には美鈴と涼太の二人だけしかいない。
「……私が夏希に意地を張ってたのは、夏希に嫉妬してたからなんだ」
「嫉妬?」
「小学生の頃、よく六人で遊んだけど、涼太はいつも夏希の方を見てた気がして。……私、昔涼太の事好きだったんだよ」
涼太は目を瞠った。
「……全然気付かなかった」
「まあ、あからさまにアピールしてたわけじゃなかったからね」
美鈴は、笑った後に聞いた。
「涼太、夏希の事好きだったの?」
「いや、夏希ちゃんの事は大切な友達だと思ってるけど、恋愛感情は無かったよ」
美鈴は、少し考えて言った。
「……夏希って、本を読むのが好きだったよね」
「そうだね」
「美也子も、本を読むのが好きで、夏希の隣にいる事が多かったよね」
「……そうだね」
「もしかして、涼太が見てたのって、夏希じゃなくて……」
「……それ以上言うのは、勘弁して欲しいな」
涼太が苦笑した。
「……そっか、私って本当に、人を見る目が無かったんだね」
美鈴が、気持ちよさそうに空を見上げて笑った。
涼太君が車に戻り、私達三人は夏希ちゃんの墓参りに向かった。お墓で手を合わせながら、私は昔の事を思い出していた。
夏希ちゃんは、綺麗な顔立ちで、ショートカットの黒髪がよく似合っていた。それと、黒猫が好きで、黒猫のデザインされたグッズをよく集めていた。あまりみんなの輪の中に入らないタイプで、一緒に遊んでいても、一歩引いた所からクールな笑顔で皆を眺めているような子だった。でも、その眼差しが優しかった事を、私は覚えている。
夏希ちゃんが美鈴ちゃんに彼氏さんとの別れを勧めた事を意外に思う人もいるかもしれない。夏希ちゃんなら、大人っぽい笑顔で「どうするかは美鈴が決める事だから」とか言って美鈴ちゃんの意思に任せそうだったから。
でも、本当は、夏希ちゃんは大切な人の為なら、お節介と思われそうな事でもする人なのだ。
「明日は、学君の所か……」
沙霧さんが呟いた。同級生六人組の一人、関谷学。明日は、彼の家を訪ねるつもりだ。沙霧さんによると、学君も、事件が起きる数日前夏希ちゃんと連絡を取っていたらしい。
「そういえば、学君、一年前告別式に出て無かったよね。どうしたのかな……」
私が呟くと、涼太君が言った。
「……美也子ちゃんは、知らなかったんだっけ。学君、中学で虐めを受けていて、それがきっかけで家に引きこもってるんだ」
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