広岡美鈴1
「今度は、美鈴ちゃんの所か……」
沙霧さんが呟い 雄大君を警察署に送り届けて、近くの食堂で昼食を取った後、私達三人はまた車の中にいた。
た。同級生六人組の中の一人、広岡美鈴は、姉御肌で面倒見の良い子供だった。少し引っ込み思案だった私が、みんなが遊んでいるのを遠目に眺めていると、気が付いて遊びに誘ってくれるような子だった。
美鈴ちゃんは現在東京に住んでいるが、今は夏休みで実家に帰ってきているようだ。
先程雄大君に聞いた話によると、一年前雄大君がこちらで夏希ちゃんに会った際、夏希ちゃんが言っていたらしい。「数日前に東京で美鈴と会ったけど、美鈴を怒らせてしまった」と。
美鈴ちゃんの実家に到着し、インターホンを鳴らすと、美鈴ちゃん本人が玄関に出てきた。少し茶色がかった髪をポニーテールにしている。美鈴ちゃんは、私達の突然の訪問にも嫌な顔一つせず中に入れてくれた。
美鈴ちゃんの部屋は、質素だった。小さめのテーブル、机、ベッド、本棚はあるが、その他に目立った家具は無い。昔は壁にアイドルのポスターがいくつも貼ってあったが、今は何も飾られていない。
そして、机の上には仕事関係の書類らしきものがいくつか置いてあった。美鈴ちゃんは今、美容系の仕事をしていると聞いている。
「今日はどうしたの、三人揃って」
美鈴ちゃんが淹れたお茶を皆が飲み始めたところで、美鈴ちゃんが聞いた。沙霧さんが、事情を説明する。
「……お金なんて、借りてないわよ……」
話を聞いた美鈴ちゃんが、眉根を寄せて呟いた。
「じゃあ、一年前に夏希と東京で会った時、夏希が美鈴ちゃんを怒らせたっていうのは……?」
「……怒ったのは事実だけど、理由は金銭の貸し借りじゃない。本当の理由は言いたくないけど……」
美鈴ちゃんが沙霧さんの質問に答えた時、美鈴ちゃんのスマホが鳴った。メッセージが来たらしい。メッセージを見た美鈴ちゃんは、少し顔を曇らせてから、スマホを側に置いた。
美鈴ちゃんの右隣に座った私の目に、美鈴ちゃんのスマホの待ち受け画面が映った。金髪に近い茶髪の男性と美鈴ちゃんが、ツーショットで写っている。
「彼氏なの」
私の視線に気づいた美鈴ちゃんが教えてくれた。東京で出来た彼氏らしい。
「え、見せて」
沙霧さんに言われて、美鈴ちゃんがスマホをテーブルの上に置いた。自然と涼太君の目にも入る。涼太君は、しばらく待ち受け画面を見た後、ぽつりと言った。
「……美鈴ちゃん、今、幸せ?」
「……え?」
美鈴ちゃんが、固まった。
「あ、変な事聞いてごめん。忘れて」
慌てて涼太君が手を振った。しかし、美鈴ちゃんは、溜め息を吐くと、苦笑した。
「涼太には敵わないな……」
美鈴ちゃんによると、彼氏さんは仕事をせず、美鈴ちゃんが彼氏さんの生活費等を全て出しているらしい。いわゆるヒモである。
「何で美鈴ちゃんが幸せじゃないかもって気付いたの?」
沙霧さんが聞いた。
「……言いづらいけど、写真の中で、美鈴ちゃんはブランド物じゃないTシャツを着たりして質素なのに、彼氏さんの方は、薄手だけどブランド物のジャケットを着ているから、二人は対等な関係じゃないんじゃないかなって……」
「ああ、言われてみれば……」
私は思わず呟いた。
「それに……ごめん、さっき座る前に机の上のシフト表が目に入ったんだけど、美鈴ちゃん、無理してシフトを入れてるように見えたから、経済的に苦しいのかなって……」
涼太君が、遠慮がちに言葉を続けた。
「美鈴ちゃん、彼氏と別れないの?」
沙霧さんがストレートに聞いた。
「別れようと思ってるよ。さっきだって、彼から会いたいってメッセージが来てたけど、お金の無心に決まってるし。……でも、意地を張って、夏希には言えなかったな……」
美鈴ちゃんは、一年前東京で彼氏と二人で街中にいる時、偶然夏希ちゃんと会ったそうだ。その後美鈴ちゃんと夏希ちゃんは二人でお茶をする機会があり、その時夏希ちゃんに彼氏と別れる事を勧められたらしい。涼太君と似たような理由で、美鈴ちゃんが幸せではないと感じたのだろう。
でも、美鈴ちゃんは余計なお世話だと怒って夏希ちゃんと別れたらしい。
「……本当は、あの時からわかってたの。別れた方がいいって。……でも、どうしても夏希には素直になれなかった」
そう言えば、小学生の頃から、美鈴ちゃんと夏希ちゃんはどこか距離がある気がしていた。どうしてかはわからないけど。
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