囀りの後に訪れる、嗚咽。ツグミの首を絞めれば、己の首が絞まる合図
- ★★★ Excellent!!!
この作品を最後まで読んでまず思ったのは。
「こんな未来、絶対にない」と言い切れないほど、現実味を帯びている世界観だということでした。
0が並ぶ様子が、心電図の心肺停止のそれのようにも捉えられました。心電図という機械自体も「ツグミ」と同じく、機械ではありますが。
ツグミアイ(AI)とでも言いましょうか。その鋭い眼光は、蟻一匹見逃さず。その制度と公平性には一目置きたいところですが、それ故の欠点として。個々人のプライバシーじゃ人権への配慮が欠落している点はお世辞にも素晴らしいとは言えないのがなんとも惜しいところ。アイ(AI)だけに、落ち目ですね。そこにアイ(愛)はあるのでしょうか。
その丸い目にかかれば、死角など存在せず。四角い部屋を丸く掃く、のではなく。大きな〇でその四角ごと囲ってしまえば、そりゃあ死角なんて存在のしようがありません。
現実だけではなく、バーチャル……つまり、ネットワークにおいてもその目は変わらず、鋭いままで。ネット(網)と良いつつも、その網目は限りなく細かいことでしょう。たとえるなら、粉糖の粒子でも通り抜けられるかどうかといったところ。
もはや、日本国内においてツグミの目の届かない場所はどこにも存在せず、文字通り日本国内を網羅しているといっても過言ではないですね。「網」だけに。
コツグミというチャーミングなネーミングとは裏腹に、義務付けられるセーフティ。用途を思えば、コツグミの(物理的な)重量が軽くとも、その役目を思えば義務付けられた国民側からすれば、その負担はズシリと重くのしかかりますね……。犯罪か否かを判断する際に、一定の裁量はあるものの、あくまでも測る物差しはツグミによるもので。対象の国民越しに見る映像が、果たしてそれほどの精度を(制度を)持つにふさわしいかは疑問に思うところではありますね。事件は現場で起こってるんだ。それこそ、対象の国民の視点で全てを監視するということは、360度ではない(?)。
ならば、対象となる国民の後ろに情状酌量の余地のある情報(不可抗力等)や証拠等が含まれている場合、それを見落とす可能性だって、なきにしもあらずでしょう。あ、これこそ、ツグミの意外な死角なんじゃないでしょうか。
……と思ったものの、リアルタイムですべて監視しているなら、前後の情報も細大漏らさず記録しているわけで、そんなことはないのですね。と思って、口を噤んでしまいました。さすがですね、ツグミさん。
少し脱線しますが、とある作品で「完全犯罪とは、犯罪が発見される『起』がおきないこと」と言われていました。ツグミはまさに、その『起』を起こさせない、最強の抑止力ですね。( ゚д゚)ハッ!……見方を変えれば、犯罪者を(犯罪を犯そうと思っている者を)永遠に寝かしつけ続ける母親のような感じなのでは……。最強の子守歌、爆誕ですね。(犯罪者や予備軍)がぐずって(犯罪の予兆を見せるような行為をした際に)、肩やお腹を優しく叩いて「ねんねしな~♪」って警告するあたりに優しさすら見いだせるのでは……。
出る杭は打たれる……ではなく、少しでも顔を覗かせれば引っこ抜かれる位の、完璧な仕事をこなすツグミ。そのツグミの後ろにはきっと、たくさんの引っこ抜かれた杭が列をなしていることでしょう……あまり想像したくはない画ですが。
ツグミのすごいところはまさにここで。ひっこ抜かれた杭の後に、「もう出てくるんじゃないぞ」と戒めのように、新しい苗木をそっと植えるんですよね。ずらりと並ぶ他の杭は、それを間近で見ているから自分たちも顔を出そうと思わない。置かれた場所で咲く。見せしめ、というと少し言葉が強いかもしれませんが、ある意味模範であり、模倣しようと思わなくなるのは、やはり一定の……否、相当の評価がされてしかるべきだと思います。
天網恢恢疎にして漏らさず、の言葉にもあるように。お天道様の網目も相当細かいとは思いますが、ツグミの網の細かさはおそらくお天道様の比ではないと思います。
そんな中、不意に起こった不測の事態。沈黙のツグミ。なんか、映画のタイトル見たいですね。……失礼しました。
人が生み出したものの、最終的には人の手から離れ、自身を自身で管理できるようになるというのは、まるで成人していく人間のようでもあり。100%完璧に手がかからなくなるかというと、決してそんなことはないというところまで、愛おしさと同時にどこか人間臭さも感じるツグミ。
事態は深刻のように思えて、実にシンプル。
犯罪が一切起きていない(白)か、ツグミが何らかの不具合で沈黙している(黒)か。〇×、白黒はっきりつけようじゃありませんか。
その不意打ちはさすがにシャレになりませんって! ツグミじゃなくても、ピィ! とか言って警告したくなりますって!笑
ツグミの構築する鉄壁のケージは、その鋭い監視網のように細かい網目で構築されているのでしょう。鎖国だけに、「鎖」なんて到底潜り抜けられるはずもありません。が、人の口にとは立てられず。人の口にツグミ(噤)も立てられず。文字通り、その口を禁ずることなんてできず、国民一人一人に対してまではさすがに「鎖国」のしようがないですよね……ガムテープならぬ、鎖で口をふさごうとも、手が空いていれば、SNSへの投稿なんて、文字通りお手軽にできちゃうんですから。これもあまり、褒められたことではありませんが、手が空いていれば、ツグミアイ(AI)がなければ、大目に見てもらえる……とはいかずとも、己の(決して誇れはしない)功績を広める機会には恵まれたわけです。まぁ、結局のところツグミアイからは逃れられないわけですが。
私なりの解釈ですが、ツグミを殺したのは、子守歌で安らかに眠ることもせず、所かまわず当たり散らした赤子であり、その結果「母」であるツグミの精神(機能)をさらに強化したのもそんな赤子だった。なんとも皮肉な話ですねぇ。
(親→ツグミ 子→国民として)親の心、子知らずですが、一芝居打ったツグミの行動が、犯罪の撲滅にまた一役買ったという事実には、膝を打ちました。
ツグミが完全無欠の存在になる日も近いのかもしれません。ツグミ(母)は偉大なり。