きみの気持ちは手の中に。
みこと。
全一話
どのくらい、見つめていただろうか。
自分の手を。
仕方ない。だって他に思考が回らないんだ。
KY線。
一昔前、"
空気のKは、気持ちのK。
「~~!!」
想いが通じてると信じてた彼女が、実は別のヤツとつき合ってた。
それにずっと気づかなかっただなんて……とんだ道化だ。
がっくりと
今日はもう何もしたくない。
今日どころか、明日も明後日も、その先も。
当分、元気出そうにない。
自室のベッドで
「こんにちは――っ」
(萌香だな)
3軒先に住むイトコは、ひんぱんにウチにやってくる。
母さんが応対してる声が聞こえた。
どうせまた、お菓子か何かを持ってきたんだろう。
試作品だと言っては、手づくりのお菓子や料理をお裾分けしにくる。
萌香のクラスで流行ってんのかな?
と、軽やかな足音が、階段を駆け上がって来た。
(くっ。ただいま失恋中です。構わないでください)
そんな
「
上半身を起こしながら迎えると、萌香は俺の顔を見てピタリと止まった。
「あれ? 暗いね? 何かあった?」
「関係ないだろ。察したなら、すぐ帰れ」
「? 何してたの?」
スマホも本も周りにないことを見て取って、疑問に思ったらしい。
「俺ってつくづく空気読めないヤツだったんだなぁって思って、KY線見てた」
「ふぅん?」
しばらくこっちを伺ってた萌香が、いきなり言った。
「さては
「ななな、なん、で?!」
(エスパーか!! てか、何をどこまで知ってんだ?)
見透かされてる? 誰にも話したことなかったのに。
「
褒められてない。
「なるほど、それでKY線。別に手相のせいってわけでもないと思うんだけど……」
口ごもった萌香が、ぱっと提案してきた。
「知ってる?
「は? そんなの無理だろ?」
「方法は簡単。変えたい手相にマジックで線を書くだけ。それ続けたら、運命はそっちに
「え……嘘くさ……」
「まあまあ。私が
ひとのペン立て漁って、マジックの
「おい!」
「大丈夫、大丈夫。水性ペンだから」
「水性でもやめろ!」
あわてて引き戻した手のひらに書かれてあったのは、線じゃなくて文字。
"スキ"
(えっ……?)
「本当に。SS級のニブさよね」
萌香が笑みを含みつつ、呆れたように俺を見た。
「はい、餌付け」
ポンと口に放り込まれたマドレーヌ。バターの香りは、これまでのどの菓子よりも甘く感じて。
えええええ──???
きみの気持ちは手の中に。 みこと。 @miraca
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