大晦日の記憶探し

常陸乃ひかる

『あと三日』

 九階ワンルームの窓を冬将軍がノックしている。はっとしながら男は、異世界へ飛びかけていた意識を地獄へと引き戻した。

「見て、観覧車のライトアップ消えちゃった。じゃあカウントダウン始めよっかぁ」

 二十一時半。

 暖房がついていない部屋の片隅で、寒気のするような女声が生まれる。声の主は、男の目睫もくしょうまで近づき破顔を晒すと、二度三度と首筋に吐息をかけてきた。男の首には、いつの間に巻かれたのか、見慣れぬレザーチョーカーが一周しており、前面がバーベル型の金具で留められている。

 男が恐怖を押し隠そうとする仕草なんて気にも留めず、女は笑みに変化を与えながらカーテンを閉め、一歩離れてキャスター付のチェアに座った。

「え? なんのって……そんな、キミとわたしとの約束をつなぐカウントダウンに決まってるじゃない。あと三日ぁ……年が変わるまでの華やかな時間でしょ」

 瞳孔が開ききった女は、背もたれを軋ませながら意味深な呪文を発する。

 彼女の名前は、九重ここのえ愛梨あいり。二十三歳。

 男が惚れていた人物だ。

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