夜会に参加は必要でしょうか・3

 吸血鬼強硬派について。

 ミヒャエラから教えてもらった限り、吸血鬼と人間の血が混ざった存在であり、人間の血が濃くなればなるほど、吸血鬼の血が薄まれば薄まるほど、凶暴化してしまうものらしい。そして人間を餌と見なし、人間が噛まれた結果、吸血鬼になりそこなったグール大量発生の原因となっているのは、専らここの人々らと。

 マリオンとリズ兄妹の家族が死んだ原因であり、おそらくはマリオンの殺した旦那もそっちの方向性だったんだろう。

 ウィルマからは「外交は無理」と言われてしまった以上、戦をかまえるしかないんだけれど。既にエクソシストの組織を一部壊滅しているから、既にエクソシストに目を付けられている可能性が大。

 ……これをエクソシストの目をかいくぐって、治めるべき場所に治めるって、縛りゲーにも程がないか? これが戦闘シミュレーションだったら、もうちょっと戦闘用の駒を増やすし、外交カードを切る場面だけれど、どちらもできないとなったら、これもう詰みじゃねえの?

 正直これを投げ出したくって仕方がなかったけれど、でもなあと考えてしまう。

 これ、なにかあった場合って、リズに絶対に被害が及ぶよなあ。だってリズが今いるのはエクソシストの組織のはずだし。さすがにエクソシスト組織壊滅は免れているだろうけれど、治安維持のために動くとなったら、絶対に吸血鬼強硬派とぶつかる。あいつら人間を餌としか思ってないんだから、エクソシストだって殺すしかないだろ。

 ……最悪の場合、リズが誰ともフラグ立てられなかった場合、吸血鬼だとばれたら殺される可能性あるのに、それはいくらなんでも駄目だろ。

 マリオンがひとりで復讐鬼のふりして、吸血鬼殺して回った理由がよくわかった。そっちのほうがてっとり早いし、なによりもリズの身の安全が第一だもん。

 でも俺がそれをできるかと言うと……無理だよなあと思う。

 俺は念のためウィルマに尋ねた。


「それで、あなたの意見はどうでしょうか? 自分は正直、このまま強硬派をのさばらせておいたら、エクソシストに目を付けられ、穏健派ごと殲滅されかねないし、止めるなら早いこと強硬派を止めないと駄目だと思っていますが。正直その手段に迷っています」

「……ええ、ベルガー夫人のおっしゃる通りです。エクソシストたちが一気に殲滅戦を仕掛けてこられ、最悪城を焼かれて我々が日の下に引きずり出されたら……全滅は免れませんもの」


 アカーン。

 おお、妹よ。なんでお前本当にそんな物騒なゲームやってたん? お兄ちゃん、受動吸引知識じゃそろそろ限度来そうなんですけど。でもここで知り合ったウィルマが日にさらされて殺されるのも可哀想だし、うちの可愛いウラも同じことされたら死にますし、俺と面白愉快なメイドだけじゃ、間がもたないと思うんですよ!

 俺が頭を掻きむしりたい中、ウィルマが「ですけれど」と言葉を続ける。


「エクソシストに殲滅戦を仕掛けられる前に、強硬派を治める方法について、策がない訳ではないのですよ」

「……どんな策?」

「あちらも吸血鬼の血が薄まり、理性がなくなることをおそれていますからね。真祖の存在をちらつかせれば、あちらも外交に乗ってくれる可能性はございます」


 ん。それって。

 ウィルマはにっこりと笑った。


「協力してくれないでしょうか?」

「……待ってください。それ、私には夫が……」

「あくまで外交の席に着くことが重要です。外交が成功することではございませんから」


 あれか。ハニートラップでうつつ抜かしている間に、有利な条件揃えようっていう奴か!? 既にマリオンはハニートラップで妹守って、旦那と殺し合いを演じてるんですがね! また殺し合いを演じろと!? 内部から吸血鬼殺して回れと! マリオン大変過ぎやしませんかね!?

 俺は「あー」とも「うー」とも言えない声を上げ、とうとう観念した。


「……わかりました。指示をお願いします。その通りに動きますから。ただし、もし外交の席に着くこととなった場合、私も従者を同行させてください。私の従者も日には弱いので、それに配慮してくだされば。それが条件です」

「ありがとうございます。ベルガー様はともかく、夫人は話がわかる人で助かりました」


 そう言ってウィルマが微笑み、俺はぐったりとした体で帰ることとなった。

 馬車に乗り込んでから、交渉のあらましをミヒャエラに言うと、ミヒャエラは「ありゃあ~……」と言った。


「ご主人様、またハニートラップですかあ」

「ハニートラップ常習犯みたく言わないで。まだ旦那以外ハニートラップにかけてないし、失敗したから殺し合いになったんでしょうが」

「そりゃそうなんですが。まあ……旦那様みたいにベッドインまで上手く行けばいいんですけどねえ。まあわたしもご主人様がテンプテーションかけれるよう、また胸の谷間頑張りますけど」

「頑張るとこそこ!?」


 ポヨンポヨンと震える偽乳を見ながら、俺はげんなりした。

 乙女ゲームの住民がたとえネームレスであったとしても、皆偽乳に引っ掛かって鼻を伸ばすのは駄目なんじゃないだろうか。

 げんなりとしながら遠ざかる城を見た。今日はもう、早く寝てしまいたい。ぐしゃんぐしゃんになった頭を、どうにか解したかった。


****


『禁断のロザリオ』マリオン完全攻略大さくせーん。ドンドン、パフパフ。

 ぶっちゃけ私の唯一の不満点だった、兄との和解ルートが存在しなかったのを、私がリズになった以上はどうにか達成できると思うんですけれど、そのためには私は乙女ゲーム禁断の逆ハーレムの構築が必要であるというのが、大変だと思います。

 乙女ゲームには、はっきり言って逆ハーやってもなあんもいいことはない。

 そんな仲間が女巡ってギスギスしてるのを傍目で見てて、なにが嬉しいのか。バンドの解散理由の半分は女で、残りは音楽の方向性の違いでしょ。

 しかし今回に限ってはその必要があるのは……まあぶっちゃけ、攻略対象全員、吸血鬼やグールの被害者友の会で結成されているため、このまま言ったら間違いなくお兄ちゃんがぶっ殺されるからである。

 おうおうシナリオライターさんよう、せめてリズが兄のことどれだけ好きだったのかを本編で書くべきだったと思うんですよう。ファンディスクでのみ、仲良し兄妹のほのぼの劇場見せられても、こちとらそれを本編で見たかったんですからぁ。

 まあ私のぼやきはさておいて。

 エクソシストの皆は、吸血鬼には三種類いるってことをまず知らない。だって吸血鬼死すべし慈悲はないで、見つけたらまず殺すってのが徹底しているから。

 はっきり言って、私が吸血鬼の真祖であると、好感度皆無の現状でばれてもまずいのである。お兄ちゃん助ける前に、私がまずぶっ殺されるからね。

 だから攻略対象全員の好感度をゲットして、私の安全圏を確保する。そしてお兄ちゃんを見つけ次第、お兄ちゃんを助けたいと訴える。好感度の高さを持ってお兄ちゃんの身の保証を立てる。

 理屈で言ってしまえば簡単なんだけれど、実際にやるとなったら相当大変なのだ。

 だって、リズは攻略対象によって、キャラが真逆かよってほどに変わる。

 気が弱いおどおどっ子かと思いきや、芯の強い正ヒロインオーラ醸し出すことだってあるし、猪突猛進直情キャラになることだってある。

 逆ハープレイするのだって、大変なんですよ。

 そんな訳で私は今、まずは攻略より先に全員の好感度底上げのために、必死で料理をつくっているんです。ぶっちゃけ前世のオール電化がいかにすごかったのかがよくわかるくらい、かまどの前大変、薪ストーブ使うのわっかんねえと、なんとか必死にやっている。


「大丈夫? 今日の食事当番手伝ってくれると言っていたけど」


 そう心配そうに声をかけてくれたのは、銀髪翠目のどうして台所に立っているのかわからないというくらいに、儚い雰囲気を醸し出した男の子だ。

 彼はルーカス。『禁断のロザリオ』攻略対象であり、リズよりひとつ年下の男の子だ。本当はもうひとり攻略対象も混ざって食事当番を行う予定だったんだけれど、昨晩のグール襲撃に対応していたせいで、眠たくって寝坊しているみたいで、未だに起きてこないのだ。

 だから見かねたリズがお手伝いって感じで、食事当番に滑り込んだんだね。


「いいの。私は戦うことができないから、休める時間は体を休めて欲しいし」


 そう言ってこねこねと小麦粉を捏ねる。

 教会でずっと孤児の面倒を見るべくパンを焼いていたから、体がしっかりパン焼きを覚えているのがよかった。

 本当だったらリズが料理をし出すのはもうちょっと先だったんだけれど、こちらも兄が事件を起こす前に、ある程度の逆ハーレムを形成しないと駄目だから、巻き進行なんだ。

 私の思惑を知ってか知らずか、ルーカスは感心したように声を上げた。


「君は前向きだね。帰る場所を失ったのに」

「誰も死ななかったもの。死ななかったのなら、まだなんとかなるから」


 そう。教会の皆は、神父様も含めて全員無事だったし、今はエクソシスト支部で内職担当で一生懸命働いている。

 死んだらおしまいだけれど、生きてりゃまだなんとかなるんだよ。

 だからこそ、お兄ちゃんを助けたい訳で。

 私の言葉に、ルーカスは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。よかった、彼の気は引けたみたい。私はそう安心しながら「これを形成するの手伝って」とパン生地を指差した。

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