現実から逃げたくなったら、ここにおいで。話を聞いてくれるよ

物語の舞台は広島。広島弁での会話は、広島に馴染みがない読者にも心地良い。
そんな中、強烈な個性を放っているのが、妖精だという、あやかママ。
なぜにママ?
それは見た目がいかにもホステスだから。
このあやかママ。ビールがお好きなようで、実に美味しそうに飲みます。
私はビールが飲めないのですが、あやかママがビールを飲む描写が本当に美味しそうで、彼女と一緒ならビールの苦さが美味しく感じられそうです。
しかしそれにしても、なぜに妖精がホステスの外見をしているの?
それにどうしてビール?
おまけに名前があやかママって……。
不思議なことだらけ。
その謎は物語最後に明らかになるのですが、そこにいたるまでの登場人物たちの葛藤する描写が素晴らしい。
正しさの中で生きていくのは苦しいものですが、その正しさから外れてしまったときに自分を責める気持ちが生じるのも苦しいもの。
あやかママは聞き上手。否定することなく、自分の意見や正しさを押し付けることもなく、ごく自然に、ゆるい態度で話を聞いてくれます。
現実に苦しくなったとき。逃げる場所があって、話を聞いてくれる人がいて、明るく笑ってくれる。
いいですよね。
あやかママのすごいところは、悩みを抱えた人たちが逃げただけで終わらないところ。
心が軽くなった相談者たちは、気負うことなく人生を進めていきます。その先に待っていたものは……それはこの物語を読んだ人だけのご褒美。心がほっこりする、とっても素敵な関係が待っています。

息苦しい人間関係に中で生きていく必要はないですが、だからといって一人寂しく生きていくこともない。
この物語に出てくる「エスケープ」というお店のように、そこに行けば自分を受け入れてくれる。話を聞いてくれる。値段は良心的(←ここ大事!)
そんな場所が身近にあったら幸せですね。

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