優美、絵里、健太、三人のエピソードからなる物語。
三者三様の人生模様が重なったとき、驚きと感動に包まれます。
そして一番の衝撃は、妖精(あやかママ)の正体が明かされた瞬間!誇張抜きに叫びます、驚きすぎて。
ヒントは出てたし、明かされてみれば確かにもうこの答えしかないはずなのに、なぜ読んでいる途中で気づけなかったのだろう。作者様の術中にすっかりはめられてしまいました。
優しく温かな面を見せながらも、同時に現実の辛さややるせなさも描かれた作品。それでも読んだ後は、希望が胸に宿ります。登場人物がみんな完璧じゃないところが、人間らしくて愛おしいです。特に健太のエピソードがスカッとしてかっこいい。おすすめです!惚れます!
最後にとても個人的な嗜好ですが、広島弁ってとてもいいですよね。特に女性が話す広島弁にはなんともいえない可愛らしさがあると思います。なので是非、この作品を読んで広島弁の魅力を堪能してほしいです。
物語の舞台は広島。広島弁での会話は、広島に馴染みがない読者にも心地良い。
そんな中、強烈な個性を放っているのが、妖精だという、あやかママ。
なぜにママ?
それは見た目がいかにもホステスだから。
このあやかママ。ビールがお好きなようで、実に美味しそうに飲みます。
私はビールが飲めないのですが、あやかママがビールを飲む描写が本当に美味しそうで、彼女と一緒ならビールの苦さが美味しく感じられそうです。
しかしそれにしても、なぜに妖精がホステスの外見をしているの?
それにどうしてビール?
おまけに名前があやかママって……。
不思議なことだらけ。
その謎は物語最後に明らかになるのですが、そこにいたるまでの登場人物たちの葛藤する描写が素晴らしい。
正しさの中で生きていくのは苦しいものですが、その正しさから外れてしまったときに自分を責める気持ちが生じるのも苦しいもの。
あやかママは聞き上手。否定することなく、自分の意見や正しさを押し付けることもなく、ごく自然に、ゆるい態度で話を聞いてくれます。
現実に苦しくなったとき。逃げる場所があって、話を聞いてくれる人がいて、明るく笑ってくれる。
いいですよね。
あやかママのすごいところは、悩みを抱えた人たちが逃げただけで終わらないところ。
心が軽くなった相談者たちは、気負うことなく人生を進めていきます。その先に待っていたものは……それはこの物語を読んだ人だけのご褒美。心がほっこりする、とっても素敵な関係が待っています。
息苦しい人間関係に中で生きていく必要はないですが、だからといって一人寂しく生きていくこともない。
この物語に出てくる「エスケープ」というお店のように、そこに行けば自分を受け入れてくれる。話を聞いてくれる。値段は良心的(←ここ大事!)
そんな場所が身近にあったら幸せですね。
現実世界であやかママのような人が周りにいる人は幸運だと思う。
善意のつもりなのだろう、苦しんでいる人に対して、苦しくても立ち向かわなきゃいけない、逃げずに戦えと、したり顔で口にする連中のなんと多いことか。
それで追い詰められて鬱になったり、果てには自ら命を断ってしまうような人が大勢いるにも関わらず、そういった風潮は無くならない。
「逃げちゃ駄目だ」では無い、「逃げなきゃ駄目だ」と言ってくれるあやかママのような人が、現実にもっと沢山いればと、そんな風に思ってしまう。
物語の中で、あやかママは相談に来た相手が何を望むのか、その望みを引き出し、ただそれを後押しする。
相手を否定することは無い。
ただ相手の思いを受け入れ、肯定し、道を指し示す。
三人の登場人物はそれぞれ、そのあやかママの言葉で自身を肯定し、前へと進む力を得る。
文章は軽妙で、広島ネタ等のユーモア要素が各所に散りばめられている事や、あやかママの柔らかいキャラクター等もあって、気持ちよく読み進めることができた。
そして、最後まで読み終えた後には、暖かく気持ちの良い後味が残った。
質の良いヒューマンドラマを探しているなら、是非この作品に目を通して見て欲しい。
決められた手順で「何か」をすると「何か」が起きる──都市伝説の定番ですが、本作においては「何か」とはビールを用意することであり、「何か」とは「妖精」が現れて悩み事を解決してくれる! というものです。ほど良い緩さと、「なんで?」感が組み合わさって気になる導入ではないでしょうか。しかも、この妖精さんは広島弁を操るどうみてもホステスな「ママさん」でもあるのですから。
本作は、妖精さんことあやかママに悩みを打ち明ける人たちの人生を描いたオムニバス形式のドラマです。登場する人たちの悩みはどれも等身大のもので、しかも必ずしも「正く」はないところに共感が持てます。
良くないのは分かっているけれど、大きな声では言えないけれど、でも──という悩みに優しくおおらかに頷いてくれる「あやかママ」の明るい言葉は読者にとっても癒しになると思います。レビューのタイトルに掲げた台詞で促してくれるあやかママ、広島弁の味と併せて何もかも受け止めてくれそうな懐深さが出ていますよね?
また、本レビュー執筆時のキャッチコピー「最後の最後、このラストシーンを、いつ予想できましたか?」から窺える通り、本作は構成にも仕掛けがあります。ちなみに私は最後の最後までまったく気付いていませんでした! 読み返すと「そういえば……!」という箇所がたくさん見つかるので、何度も楽しめる作品でもあります。
さらに、本作はご当地ものとしての魅力もたっぷりです。広島弁は妖精さんことあやかママのおおらかな雰囲気にもぴったりですし、街の描写から伝わるご当地の空気感にはリアリティがあって、実際に広島を訪れた気分になれました。「広島風お好み焼き」についての言及は、他県出身者にとっては「本当にこだわるんだ……!」という新鮮な驚きと面白さがありました。
とても楽しく、そして心温まる作品です。お勧めです!