第六話 夫の浮気相手

 私はタイムリープのことは、ひとまず置いといて、夫の浮気相手を調べることにした。一連の出来事を文章に起こした際、浮気相手のことが気になり始めたのだ。私が彼の浮気相手が何者なのかについてわかってないまま、前回、夫は死んだ。生真面目な夫が私に浮気をしてまで惹かれた女性…その正体が知りたくなった。

 その女性の正体はすぐにわかった。

 夫のスマホは古い型で、指紋認証だけですぐに中が覗けてしまう。私は夫が寝ている間に、手をそろりと掴み、彼のスマホのホームボタンに彼の親指を置いた。ロックが解除されスマホ画面が開いた。夫は寝起きが悪いので、これぐらいではすぐに起きないので良かった。

 スマホに入っているメッセージアプリを開く。

 すると、一番上にあの女性の写真があった。あの隠し撮りの写真と同じ向きの横顔だから、すぐわかった。プロフィール名は実名らしく伊香萌と書かれていた。「いかもえ」と読むのか?タップしてメッセージのやりとりを確認した。なんと夫は寝る一時間前ぐらいにもやり取りをしていた。そこには、こんなことが書かれていた。


伊香萌『今日、また、あの湖に行かれたんですね。あそこ、地元だし、もえぴ~も好き♡』

夫『へえ、そうなんだ』


 一人称がもえぴ~???そこから私の予想通り、彼女が「いかもえ」という名前だったことが判明したわけだが、あまりのヘンテコな一人称に驚いてしまった。

 気を取り直して、下方向へのスワイプを繰り返し、伊香萌いかもえと夫のメッセージを一番最初まで遡った。

 すると、一年前のメッセージにまでたどり着いた。一年前から不倫していたとは全然気づかなかった…中々やりおるな夫も…腹が立ったので、私はスヤスヤ寝ている夫を鬼の形相ぎょうそうでにらみつけた。

 メッセージを読み進めていくと、もえぴ~こと伊香萌は、夫の職場の近くのコンビニでアルバイトをしているらしい。そのコンビニの常連だった私の夫に惚れた彼女は一年前、コンビニのレシートの裏にメッセージアプリのIDを書いて渡した。そこから、何度か夫と彼女は会っていた。思い起こせば…夫が急に仕事が遅くなったり、出張が多くなったりしたのは、去年からだった。全部ではないかもしれないが…あれらのいくつかは嘘だったのだろう。

 夫は伊香萌の家に訪れる際、道に迷ったことがあったらしく、伊香萌はご丁寧にアプリの位置共有機能を使って自宅をマップで表示して送っていた。私はそこに表示されている住所をノートにメモした。後で調べると、そこは私たちの家から歩いて三十分もかからないほどの近場だった。こんなに近くに敵が潜んでいたとは…

 夫と彼女はメッセージのやりとりは頻繁にしていたが、彼女の写真は一枚もあげられていなかった。また、夫のスマホの写真フォルダにも一件も彼女の写真は無かった。私にばれないようにする予防策かもしれぬ。

 あの浮気現場の写真とプロフィール写真はどちらも、横顔であり、彼女の顔がよくわからない。私の夫を骨抜きにした彼女のご尊顔をぜひもう少ししっかりと眺めてみたい、そう思った私は、メッセージアプリの過去のやり取りから彼女の休日を把握し、その休日に彼女の家の前で張り込みをすることにした。

 

 

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