殺された夫と戻った世界

村田鉄則

第一話 夫の溺死体

 県北にある、湖で私の夫は死んだ。

 死因は溺死だ。

 警察からの知らせを聞いて、友人の自動車に乗せてもらい、現場に駆け付けた私は、プカプカと浮かぶ夫の死体を見て…

 ほくそ笑んだ。

 その時、私の近くに生えていた木から光が放たれ、私を包みこんだ。


 気づくと、私はベッドの上にいた。

 ベッド横に置いてあるスマホで日付を確認すると…

 日付は、

 私が夫の不倫に気付いたあの日だ。

 私は長い夢を見ていたのだろうか。

 そんなことを思っていると、電話が鳴った。

 デジャヴだ。私が一週間前だと思っている夢の中のあの日と全く同じタイミングで電話がかかってきた。大きな音で鳴り続け、終わる気配も無く、煩わしいが仕方なく電話に出る。

『おはよう…』

 それは、やはり夢の中と同じように私の同僚の声だった。私は地域情報誌の編集者をしているのだが、その同僚だ。私は今妊娠中で、長期の育休を取っているため、数か月ぶりに話す。数か月ぶりと言っても、夢の中では一週間前に話していたので、私の感覚だと一週間ぶりなのだが。

『朝からね、しかも、妊娠中のあなたに、こんな話をするのもあれなんだけどね…やっぱり言っておかないといけないと思って…』

「んぁ?どうしたの?」

 寝ぼけまなこをこすりながら、私は彼女の電話に応答した。

 夢の中で起きたことが現実でも起きないことを祈る。

 何故なら、彼女が私に告げたのは…

『私、昨日、取材のために車を走らせていたら、あなたの夫が女の人とラブホテルに入っていくの見たの。その時、車を止めて証拠写真も撮ったから、後で送るね』

 …夢の中と一言一句たがわない言葉が同僚の口からは、出てきた。

 私は、驚きのあまり口をつぐんだ。

『どうしたの?ちょっと衝撃的過ぎた?ごめん、けど…言っておかないと駄目かなと思って…黙っておくのも、私が良心の呵責かしゃくさいなまれるというか…あっ、もうすぐ朝礼が始まるから切るね』

 ツーツーツー…

 電話が切れた。


 私は逡巡する。

 夢の中の出来事が現実に起きたのか?

 それとも…

 私自身の意識が一週間前に飛ばされたのだろうか?


 夢にしては、あの一連の出来事はいささか現実味に溢れ過ぎている気がする。

 まあ、どちらにせよ、私の人生で最悪な日々は始まったばかりなのだった。 


 

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