第三話 夫が死んだ経緯
夫が死んだのは私の感覚では今日。現実では一週間後だ。
夫が死んだ経緯を説明する。
一週間前(私の感覚では)、夫に浮気の証拠写真を突き付けながら、声を大にして私は彼を責めた。あのとき、私はひどく気が立っていた。
「何よこれ!!お腹に子供がいるのに情けない!糞くらえ!!」
「それは、相手が誘ってきて、つい断れなくて…」
「性欲が抑えられなかったのね!恥知らず!!」
「…」
「しばらく会いたくない!!家から出ていけ!!!」
そして、私は夫を家から追い出した。着替えやお金、スマホ、仕事に必要なPCなど最低限の荷物は持たせてだが。
夫はそのことに抵抗もせず、頭を垂れたままではあるが、そそくさと支度をして出ていった。家に勝手に入れないように夫の分の鍵は私が預かった。
夫の浮気が分かった瞬間から、夫の悪い部分ばかり頭に浮かぶようになった。
おしゃれ着洗剤を使わずセーターを洗って縮ませたり、変な気持ちの悪いホラー映画をリビングで大音量で見たり、煙草を家の中で吸うなと言ってるのに吸ったり、若いのに親父臭がキツイことだったり、などなど…
そんなことを思い浮かべていたから、いざ夫が家からいなくなったら、かなりスッキリした。
一方、夫は自責の念に駆られたのだろう。その一週間後、突然私にメッセージアプリでこんなメッセージを送ってきた。
『僕が悪かった…』
『死んでくる』
その後、警察に呼ばれ、県北にある湖に着いたとき、あのとき彼が乗っていった軽自動車が彼の死体近くの道路に停まっていた。警察の事前の説明によると、その自動車の助手席には、空の酒瓶が多量にあったという。
私に対する自責の念で心的に病んでしまった彼は多量の酒を浴びるように飲み、急性アルコール中毒で身動きがうまく取れない…意識が
つまりは、間接的に私が夫を殺してしまったわけである。
普通、夫がそのような状態になったら妻は絶望し、泣き叫ぶだろう。
しかし、私は彼の死体を眺めたとき、浮気をした男のそのあまりの無様な最期に、ほくそ笑んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます