第四話 羽衣伝説

 しかし、世界の時間は戻った。

 時間が戻る直前、私の近くにあった木が突然に光出すという超常現象が起こった。  

 私はスピリチュアルには興味ないが、あの現象からかんがみるに、神様が私にやり直しのチャンスを与えてくれたのだと感じる。

 前の世界では、浮気を知り激昂した私は…その日中、つまり、今日、夫に対して怒鳴り散らした。そして、最悪な展開に至った。まあ、その結末で私は、ほくそ笑んだわけだが…

 夫の浮気の事実を知るのが二回目であるためだろう、今の私は全然彼の愚行に対して怒っていない。

 夫の浮気より、超常現象の方が気になっていた。 

 なぜ木が光ったのか?

 そもそも、私たち夫婦の何を見て神は世界の時を戻したのか?

 色々と疑問が浮かぶ。


 とりあえず私は、次の土曜日に夫に頼んで県北のあの湖に連れて行ってもらうことにした。

 日本一の湖である琵琶湖、その右上に小さくある湖、それが前回夫が溺死した場所だ。私たちの住む家からは琵琶湖に行くより、その湖に行く方がはるかに近い。だからこそ、夫は琵琶湖ではなく、そこを死に場所に選んだのだろう。


 夫には、ずっと家で籠っているのが嫌になって、気分転換に湖でも見に行きたいと述べた。夫は承諾し、自動車を走らせ、片道二十分かけて湖のほとりにある観光案内所のそばにある駐車場まで連れて行ってくれた。そこから出発し、湖を左回りで回っていると、しばらくして銅像が見えた。それは羽衣を纏った和服の女性であった。体を雲の上に浮かべている。

「あれ?ねえあれって天女じゃない?」

 私は夫に聞いた。私の出身は関東にあり、大学卒業後Uターン就職した夫と一緒に夫の地元である滋賀県に引っ越してきた。そのため、今住んでいるにもかかわらず、滋賀県に対する知識があまりない。今回、天女の銅像がこの湖にあることを初めて知ったぐらいだ。

「ああ、それね。羽衣伝説って知ってる?」

 夫は何故かドヤ顔でそう聞いてきた。

「『火の鳥』で読んだことある」

「確かに、『火の鳥』でもあったね。ここらで伝わる羽衣伝説はいろいろなパターンがあるけど、僕が詳しく知ってるのはこのパターンだね。八人の天女が白鳥になって、この湖の南で遊んでいたんだけど、それをある一人の男、伊香刀美いかとみさんが発見する。白鳥を遠くから眺めると不思議な形をしていたから、男は白鳥を神様であると思って、近づいたんだ。そうしたら、近くの位置からだと、白鳥ではなく天女のように美しい美女が水浴びをしている様子が見えて、男は一目ぼれ。後、木にかかっていた羽衣を自分が連れていた白い犬に奪わせたんだ。そのことに気付いた天女たちは逃げ出したのだけど、羽衣を盗まれた末っ子だけ取り残されてしまい、この地に住み始めた。そして、羽衣を盗んだ伊香と結婚する。しかし、その元天女は子供を産んでから羽衣を見つけ出し、結局、彼女は天に帰っていく。夫は妻を失い絶望の淵に落とされる、ってな感じ。まあ少し違うだけで一般的な羽衣伝説のおとぎ話とほぼ一緒だね。ばあちゃんがよく話してくれたから覚えてるんだ」

 この天女の伝説が私のタイムリープに関係してそうである、私は夫の長話を聞いて、そう確信した。

 まず、一目ぼれ・恋・夫婦がテーマであるし、最後に離別しているところも私たちの身に起きたできことと関係しているからだ。

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