第八話 殺害計画

 夫に裏切られた私は怒りから、夫を殺すことにした。

 前の世界で夫が死んだあの時、私が笑えたのは夫は真面目で、浮気は一回の過ちなんかではなく、裏で愚行を繰り返していたのを予期していて、ざまあみろと思ったからなのかもしれない。

 殺害方法は至ってシンプル。睡眠薬を使って溺死させるのだ。前の世界で夫は浮気をした自分を責め続け、自暴自棄になって酒を飲んで溺死したのだ。それが自然の摂理だった。だのに、超常現象が起こって、この世界では生きている、それはおかしい。私はそんなことを頭の中で何度も反芻はんすうし自分に言い聞かせた。

 夕食時、私が昔、不眠症だった時処方された睡眠薬を彼の飲むスープに入れて出した。夫は急に眠くなったと言ってスーツとシャツを着たままベットに行った。そして、十二時ごろ、私は…

 殺害計画を実行に移した。


 私たちの家は人通りの少ない田んぼの真ん中にある。夜中だと、誰にも見られることは無い。そのため、私は夫を隠しもせず、車の後部座席に運んで横に寝かせ、あの湖に向かった。

 あの湖は夫が自暴自棄になって死んだ場所であり、夫が性行為を行った場所でもある。生と死の狭間にあるような場所だ。そんなことを車を走らせながら思った。

 

 湖に着いた。薄明るい闇の中に天女の銅像がそびえたつ。車内から辺りを見渡したが、夜の十二時半ほどであることもあって人通りも無い。私は夫を抱えて、湖に投げ込もうとした。そのとき、あの銅像の方から声がした。


「本当にそれで良いんですか?」

 私は目を泳がせ、ひどく驚き慌てあわふためきながらこう言った。

「…良いって何よ…あなたは誰?まさか…天女?」

「天女ではありませんが、天女に近いかもしれません」

 銅像の裏からのっそりと誰か現れた。

「私ですよ」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る