第14話 月
1
「今夜は明るいですね」
「今日は満月か」
「ゆっくり月を見るのは久しぶりだな」
明るい月明かりの元、声が聞こえる。
声の主は一人の少女と二人の生首である。
「最近忙しかったからな」
「やつに迷惑をかけられていたからな」
「街のやつら喜んでいたな」
2
二人の生首と一人の少女は、因縁の魔族と一応の決着を見た。
だがブレア―と名乗る魔族から、今の魔王アイストが封印の真相を知っているかのように仄めかされる。
真実を確かめるため、一行は魔王が鎮座する魔王城へと向かうことにした。
その旅程の途中の平原で彼らは野営をしていた。
少女と二人の生首は焚火を囲んで話していた。
「ヴァ―ル。だいぶ前に満月だと魔物が活性化すると聞いたことあるけど本当か?」
アレックスの質問に、ヴァ―ルは即答せず少し考える。
「そうだな。そうでもあると言えるし、そうではないと言える」
「どういうことでしょうか?」
ヴァ―ルの答えに、クレアは興味深げに問い返す。
「それを答える前に、アレックス。
貴様たちのような人間は月が出ると、活発に活動するか?」
「へ?ああ、そうだなあ。
視界が確保しやすいから、何かする人間はいるだろうな…」
「魔物もそれと一緒だ。
月明かりが無くても活動できるが、明るければ動きやすい。
それを見て人間は、魔物が活発になっているように見えるのだろう」
「その物言いは、魔物から見れば人間も活発に活動しているように見えるって事でしょうか?」
「その通りだ」
ヴァ―ルは満足そうにうなずく。
「なるほどな。立場が変われば見え方も変わるか…」
「うむ。世間では我々は世界のために戦って死んだことになっているが、我々からしてみれば成り行きで戦っただけだからな」
「待て、俺世界のために戦っていたいたぞ」
「本当ですか?」
クレアはアレックスの目をまっすぐ見る。
アレックスは耐えきれず目をそらす。
「アレックスよ。やっぱり嘘か」
「い、一応、嘘じゃないぞ。ただ、浮かれていたのが多かっただけで」
アレックスはしどろもどろになる。
「は、話を戻すぞ。
見え方が変わるって言えば、俺たちもなんで封印されてたのかだよ。片方だけならともかく、両方だぜ」
「露骨に話を変えてきたな。まあいい。
たしかに普通、敵対勢力だけを排除する。
もちろん味方が出世の邪魔だから、という理由もあるがな」
「ああ、今の魔王は野心家とは言ってたな」
「正直、イメージとは結びつかんがな。
直接会えばわかるであろう」
「会えばわかる、ですか」
「ああ、何もかも、な」
一同の間に沈黙が流れる。
「あの、一つ気づいたことがるんですけど、いいですか?」
クレアが言葉を受けて、アレックスとヴァ―ルはクレアの方を見る。
「あの、会ったときの話なんですけど、正直に答えてくれるんですか?」
クレアの言葉に二人の生首は目を見開く。
「確かに。悪意を持って我らを封印したのであれば、話し合いの機会さえないのかもしれん」
「おおう。結構切実な問題だな。お土産でも持っていくか?」
「アレックス様、さすがにそれは緊張感がありません」
「でも、他に方法あるか?」
一行は妙案がないか考え始めるが、何も思いつかなかった。
「まあ、今ここで思いつかなくてもよいだろう。
まだ先は長い」
「いざとなれば、抵抗できないところまで追いつめて、聞き出すしかないな」
「それしかありませんね…」
「じゃあ、各々考えるってことにして、もう休もうぜ。
明日も早いんだ」
「そうだな。クレア、お前は寝るといい。
見張りは我らがしよう」
「ではお言葉に甘えて。おやすみなさい」
「「おやすみ」」
クレアが馬車の中に入っていったのを見て、アレックスは口を開く。
「はあ、考えることが多くって、いやになるよ」
「ふん。お前は考えるのが苦手そうだからな」
「言ってろ」
アレックスは睨みつける。
そんな会話を交わしながらも、二人の生首は周囲を警戒していた。
活発化しているであろう魔物と人間が近づいてこないよう、周囲を魔力でけん制しながら。
クレアに危険なものを近づけさせないために。
月はそんな孫思いの二人の生首を照らしていたのだった。
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