第13話 流行
1
「ひと段落しましたね」
「もう災害が起こる事は無かろう」
「これで町の住民も安心して住めるな」
平和な街の大きな屋敷に話声がする。
声の主は一人の少女と二人の生首である。
「これから彼にはゆっくりお返しをしなければなりませんね」
「街のやつら喜んでいたな」
「やつに迷惑をかけられていたからな」
2
二人の生首と一人の少女は、因縁の魔族と一応の決着を見た。
だがブレア―と名乗る魔族から、今の魔王アイストが封印の真相を知っているかのように仄めかされる。
真実を確かめるため、一行は魔王が鎮座する魔王城へと向かうことにした。
しかしその前に、報告のためクレアの故郷へと戻る。
そこで、かつてこの街を危機に陥れた魔族のキーメを受け渡すのだった。
「アイツどうなるかな?」
アックスが陽気に笑っている。
「前から思っていたが、貴様は他人の不幸が好きよな」
ヴァ―ルは呆れていた。
「そうですね。昔の大罪人は、市中引き回しの上、打ち首獄門ですね」
「あー、もう打ち首にしちゃったな」
キーメは、連れて帰るのに不便ということで、首だけにされたのだ。
「大丈夫ですよ。
生きてますし、これから考えればいいのです…」
「そうだな。
俺たちは一通り嫌がらせはしたが、町のやつらが新しい拷問思いつくかもな」
「それです、アレックス様。たくさん人が集まればいい案が出てくるかもしれません」
クレアのその言葉に、ヴァ―ルは眉を
「クレアよ。年頃の女の子の言葉とは思えんぞ。
クレアは年頃の女の子みたいに流行りものを追いかけないのか?」
「流行は分かりません。
私は小さいときから、母と一緒に司祭の仕事をしていたので、他のことは知らないのです」
「だが、その責務はもうない。普通の女の子に戻ってもいいんだぞ」
ヴァ―ルの言葉に、今度はクレアが眉をひそめた。
「ヴァ―ル様、まさか私を置いていこうとしているのですか?
アレックス様はご存じで?」
クレアの威圧に、二人の生首は怖気づきそうになる。
少しの沈黙の後、口を開いたのはアレックスだった。
「そうだ。これから魔王城にも行くが、クレアには関係ないからな」
「その通り。クレアはこの町で一人の普通の女の子として過ごすのが幸せなのだ」
「お断りします」
ヴァ―ルとアレックスの説得にも、クレアは応じる様子はなかった。
「むう、強情な…」
「私の意思を無視した人に、そんなこと言われたくありません」
ヴァ―ルとクレアは睨み合う。
その様子を見ていたアレックスは大きくため息をつく。
「そうだな、クレア。お前の意思を聞いてなかった。
聞き方を変えよう。お前、なにかやりたい事は無いのか?
俺たちについてくる以外でだ」
「やりたいことですか?」
「そうだ?」
アレックスの言葉に、クレアは思案する。
「はい。やりたいこと、あります」
「そうか、やりたいことあるのか!」
「うむ、ではそれをするといい。我らは力を貸そう」
「本当ですか!」
クレアの言葉に二人の生首は喜び、クレアも嬉しそうにほほ笑む。
「で、クレアよ。やりたいこととはなんだ?」
「はい、冒険者です」
クレアの言葉に、二人の生首は凍り付く。
「ぼ、冒険者?」
「はい、冒険者です」
「まて、お前にはまだ早い」
「そうだ、冒険者は危険だ」
「力を貸してくれるというのは嘘ですか?」
場に沈黙が流れる。
「それに言ってましたよね。流行りものを追いかけないのか、と。
少し前に女の子が主人公の冒険ものの小説が流行りましてね。
それで、冒険者に憧れる女の子は多いですよ」
「わ、分かった。冒険者という案を飲もう」
「アレックス!本気か?」
「確かに危険だが、十分訓練を積めば問題ない。
魔王城に連れていくよりかはましだろう」
「それはそうだが…」
「では、決まりですね」
クレアはにっこり笑う。
「それで、俺たちに付いてこないんだな」
「はい」
アレックスの苦渋に満ちた言葉にも、クレアはニコニコして答える。
「妙に素直だな。何か企んでいるのか?」
「まさか。ここまでしてもらって、こっそりついていくような真似なんてしませんよ」
「そうか。それならいい」
ヴァ―ルは訝しむが、クレアは表情を崩さない。
「ま、まあ、とにかく。これからの話をしよう。
そうだ、クレア。どこか行きたいことあるのか」
アレックスはひきつた声でクレアに問う。
「そうですね。いろいろ行ってみたいこところがありますが、最初に行きたい場所は…」
「「行きたい場所は?」」
ヴァ―ルとアレックスの声が重なる。
「一番最初に行きたい場所。それは魔王城ですね」
「ちょっと待つのだ、クレア。お前はついてこないと言って―」
「はい。ついていきません。勝手に一人で行きます。
ああ、ヴァ―ル様も魔王城に行くのでしたね。
私についてきても構いませんよ」
「そんな屁理屈など!」
「諦めろ、ヴァ―ル。俺たちの負けだ」
「しかし…!」
「
一度決めたことはてこでも曲げない。
このまま一人で行かせるよりかは、一緒に行った方が安全だよ」
「ぬう」
ヴァ―ルは、しばらく考えていたが、何も思いつかないのか、反論を口に出す事は無かった。
「分かった。一緒に行こう」
それを聞いたクレアは大きく頷いた。
「異論はありませんね。
また旅が出来て嬉しいです。
さあ、次の旅の準備をしましょう。
冒険が私たちを待っています」
二人の生首が沈痛な面持ちであることを尻目に、クレアは楽しそうにはしゃぐのであった。
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