勇者の生首と魔王の生首

ハクセキレイ

第1話 むかしむかし

           1


 昔々、魔族と人間が争っていました。

 それはお互いがお互いを殺し合い、血で血を洗うみにくい戦争でした。


 人間たちは、このまま勝ったとしても、人間の国は滅んでしまうと考えました。

 そこで人間の中で強い人間を集めて、魔王の討伐を命じました。

 彼らは勇者と呼ばれ、国に対する忠誠心と正義感で、過酷な旅を続け戦いぬきました。


 しかし長い旅の間、たくさんの勇者たちは次々と倒れていきました。

 そして魔王のもとにたどり着くころには、勇者は一人になってしまいました。

 しかし最後の勇者は勇気を振り絞り、魔王に挑みました。

 その戦いは熾烈しれつなもので三日三晩続き、最後には両者の相打ちという形で終わりました。


 その戦いを見た人間と魔族は、自らの過ちに気づき、戦争をやめて平和に暮らしましたとさ。



           2


「事実とを捻じ曲げられて伝わっているようだな」

「くそ。適当なこと書きやがって。なにが過ちだ」

 二人の男の声が聞こえる。

 しかし、その場所に人間の姿はない。

 あるのは二つの生首と、その間に古びた絵本があるだけだ。


「勇者よ。我々が封印されている間に時代は変わったようだな」

「ふん。俺を生贄にして魔王を封印したくせに。都合のいいやつらだ」


 彼らは勇者と魔王のなれの果てである。

 封印で閉じ込められてから、長い時間がたち、体が朽ち果ててしまったのだ。

 しかし、どういうわけか首だけは朽ちることなく動くことができた。


「我が作り出した使い魔に捜索させたが、ずいぶん昔にこの辺りは放棄されているらしい」

「そうだろうな。でなけりゃ封印が解けたりはしない」

 彼らにに施された封印はすでに解けていた。

 どんな強力な封印も、維持しなければいつかは解ける。


「で、勇者よ。どうする?」

「どうするとは?」

「分かっているだろう。世界を滅ぼさないか」

「は!勇者にそれを言うかね」

「裏切られたのであろう」

「確かにな。それに今の俺は人間というより魔物だからな」


 勇者は考える。

「そうだな。いったん保留だ。世界を旅をしてツマらない世界だったら滅ぼす。面白そうだったら世界を支配する。どうだ?」

「それはいい。破壊するだけが悪道ではない」

「お前はどうする?一緒にくりゃ世界の半分をやるよ」

「くくく。我よりよっぽど魔王らしいわ。面白い、お前についていくことにしよう」



           3


 こうして勇者と魔王は、世界を混乱に陥れるため手を組んだ。

 この二人の生首の復讐の果てに何があるのか

 それはまだ誰にも分からないのであった

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