第10話 来る

           1


 とある廃墟になった町のとある建物の中で、炎が燃えていた。

 燃え盛る炎によって、4つの影が映し出される。

 影の主は、一人の少女と二人の生首は、一人の魔族である。


「勝手なことをしては困るな」

 勇者の生首アレックスは睨みつける。

「今話をしていたんですけどね」

 少女クレアは憤る

「貴様、どういうつもりだ」

 魔王の生首ヴァ―ルは問う。


「苦しみを、とのことで燃やしました。死なないのは予想外でしたが…」

 そして、魔族は不敵に笑う。



          2


 少女と二人の生首の一行は、因縁の魔族を探しに廃墟にやってきた。

 そして、セキレイとの会話で、ある建物に魔族が住んでいるという情報を得る。

 建物に乗り込み、因縁の魔族キーメと対峙する。

 しかしキーメは効力の副作用で息も絶え絶えの状態であり、簡単に追い詰めることができた。

 キーメが命乞いのため、何か言おうとした瞬間、謎の魔族がキーメを燃やしたのだった。



「申し遅れました。わたくし、魔王軍参謀ののバレアーと申します。お見知りおきを」

「参謀のバレアー。知らんな」

「そうでしょうとも。ヴァ―ル様。あなたが封印されている間、新しい魔王が即位されましたので…」

「ほう…」

 ヴァ―ルが興味深げに頷く。


「我の名前と封印されていたことを知っているとはな。我は世間で死んだことになっておるのだぞ」

「それはもちろん今の魔王様に聞きましたから。生首だけになっているとは思いもよりませんでしたが…」

「では今の魔王は、我を裏切った奴の一人か」

「そこまでは聞いておりません」

「今の魔王は誰だ?名前を言え」

「アイスト様です」

「…ふむ」

 先ほどまで、威勢のよかったヴァ―ルが急に静かになる。


「意外ですか」

「そうだな、意外だ。あいつは出世欲があり、実力もあった。

 だが魔王が務まるほどの力があるとは到底思えんな」

「そうでしょうね。しかし、強さを得る方法をご存じでしょう」

か。があったのだな」

で力を得たアイスト様は、バラバラだった魔王軍を強さをもってまとめました」

「なるほどな…」


「まあ、アイストには後々挨拶に行くとして、ここに来た要件はなんだ」

「ヴァ―ル様一行に挨拶に参りました」

「嘘をつけ。どうせ。キーメの口封じであろう。出来ておらんがな」

 ヴァ―ルは、いまだに燃え続けるキーメを見やる。

 普通の魔族では燃え尽きてしまう炎を受けているにもかかわらず、キーメはいまだに生きていた。

 の影響によって、死ぬことができないのだ。


「分かりますか?」

 ブレア―は、興味深げに尋ねる。

「ああ。大方、貴様がをもって来た張本人と言いたかったのだろう。

 キーメごときが、3つもを持っているのは不自然だからな」

「まあ、キーメ様が持っている情報などそれ位のものですしね。

 もちろん渡したのは、実験台になってもらうためです。

 本人は知りませんけどね。ただ―」

 ブレア―はため息をつく。

「おっしゃる通り3つお渡ししたのですが、二つ無くされ、最後の一つもなぜか不良品と言われる始末。

 役に立たないので、キーメ様は処分しようという話になり、ここに来たのです。

 失敗しましたけどね」

 ブレア―は見るからに肩を落としていた。


「なるほどな。それで我らの前に現れたのはどういうわけだ?」

「と言いますと?」

「とぼけるな。キーメなんぞ、どうにでもなる。

 気づかれないうちに、我らを不意打ちすることもできたであろう」

「ああ、それですか。それはわたくしがヴァ―ル様のファンだからです」

 ヴァ―ルは、理解できないという顔をする。


「本当ですよ。ヴァ―ル様に体があれば握手してもらおうと思ったくらいです。

 わたくし、つよい人が好きなんです。

 もちろん、そこにいるアレックス様も」

 急に名前を呼ばれて、アレックスはビクッとする。

「貴様、寝ておったな」

「だって、話は入れないし、敵意もないしな」

「だからと言って寝るか…」

「普通寝ませんよ。アレックス様」

 ヴァ―ルとクレアは呆れた声を出す。


「そちらのキーメ様は差し上げます」

 ブレア―がぱちんと指を鳴らすと、キーメを燃やしていた炎が消える。

「ファンからのささやかなプレゼントと思ってください」

「色気はないがな。いいのか、我らを消さなくても」

「ここで会ったのは本当に偶然で、ヴァ―ル様たちに関しては何も命令を受けていないのです。

 もちろん魔王様に報告しますから、その命令によっては、ヴァ―ル様たちを消さねばなりません」

「ふむ、報告ついでにヴァ―ルが会いに行く伝言してくれ」

「承知しました。あるいは、わたくし共のほうから来るかもしれませんので、その時はお願いします」

 そしてバレアーは後ろに一歩下がり、闇の中へと消える。

「ではまた会いましょう」

 そういうと、バレアーの気配は完全に消えたのであった。



           3


「さて、次の目的地は決まったな」

「なんだ。起きておったのか」

「ふふ、目指すは魔王城、ですね」

「ああ、アイストに挨拶に行かねばな」

 そうして少女と二人の生首はお互いに頷きあった。


「キーメさん、どこに行くんですか」 

 クレアは振り返らず、後ろにいるキーメに話しかける。

「話は終わってませんよ」

 キーメは四つん這いの格好で固まる。

 自分に注意が向かっていないうちに、この場を離れようとしたのだ。

 だが、それも失敗に終わった。

「あなたもこちらに来るんですよ。お話をしましょう」


 一人の少女と二人の生首は、因縁の相手と邂逅し、一応の決着を見た。

 だがまだ何も終わってはいない。

 この魔族は何も償っていないからだ。

 彼には、時間をかけて罪を償わせなければいけない。


 また封印の裏事情を知っているであろう、今の魔王にも会いに行かねばならない。

 彼らは、なぜ自分たちが封印されたか、知らねばならないからだ

 

 一人の少女と二人の生首の旅は続くのだった。


 

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