第9話 つぎはぎ
1
「ふむ。扉を開けていきなりという展開はないようだ」
「不在でしょうか」
「いや、奥から禍々しい気配がある」
広い建物で話し声が聞こえる
声の主は、一人の少女と二人の生首である。
「誰かが住んでいる痕跡がありますね」
「ああ、だが姿が見えん。気をつけろ」
「例の魔族だといいな」
2
一行は因縁のある魔族を追い廃墟になった町にやってきた。
そして鳥のセキレイから、例の魔族らしき存在がいると聞き、建物に入って来たのだった。
「ここはとても歩きづらいです」
「ああ、ゴミだらけだ。瓦礫もそうだが、住むならもう少し片づけないか」
クレアとヴァ―ルの指摘する通り、瓦礫や住人が食べたであろう動物の骨が散乱しており足の踏み場が無かった。
「んー。これ見てると、ゴミまみれだった屋敷を思い出すな」
「はい?」
アレックスの突然のカミングアウトにクレアが戸惑う。
「ちゃんと勇者してた頃の話なんだけど、町の依頼でゴミだらけの家を掃除してくれって言われたことがあるんだ」
「なんで、勇者にそんなことをさせるんだ」
「勇者って言ってもたくさんいたしな。数多くいるうちの一人だから、扱いは割と雑で、便利屋みたいな事をよくさせられたよ」
「勇者にさせる仕事じゃないだろ」
「なんで断らなかったんですか?」
クレアとヴァ―ルは呆れている。
「まあその通りなんだが、金がなかったのもあるけど、依頼者が鬼気迫っていてね。気迫で『はい』と言わされたよ」
「なんかとんでもない人間が出てきたな」
「クレアのばあちゃんのクリスだよ。ああ、クリスの家の掃除じゃなくて、町にゴミがあふれている家があるから、町の責任者としてどうにかしたいって依頼なんだ」
「そこでお婆様が出てくるんですね…」
「で、そこに行ったんだけど、まあ、家主がムカつく奴でさ。威張り散らすんだよ。
しかも掃除するんだったら、あーだこーだって注文も付けまくる。しかも、ちょっと柱にぶつけたら、賠償とか言い出したんだよ」
アレックスは思い出したのか、こめかみに血管が浮いていた。
「で、俺、キレてな。魔法でまとめて吹き飛ばした」
「お前、無茶苦茶やるな!」
「アレックス様、いくら何でもそれは…」
二人の非難にアレックスは全く動じている様子はなかった。
「吹き飛ばしたらさ、周りで見物していた人たちが、駆け寄ってきてな。ものすごい勢いでお礼を言われて、胴上げまでされた。
俺の人生の中でTOP3に入る感謝ぶりだったな」
「…家主がどう思われていたかが、よく分かるエピソードですね」
「で、家主は俺に近づいて文句を言いたいけど、住民バリアのせいで近づけないわけよ。そこで家主が正体を現して、魔族に変身したんだ」
アレックスが少し貯める。
「そこにいる魔族みたいにな」
3
アレックスの言葉を受け柱の裏から魔族が出てきた。
その魔族の姿は、魔法をはじくドラゴンの体を持ち、オーガのように太く逞しい腕で、背中にはワイバーンの翼があり、そして口からは黒いモヤのようなものが出ていた。
「ククク。気づいていたか」
「あのぐらいの尾行じゃ、俺たちは騙せないぞ」
「まったくだ。クレアはともかく戦士である我らにはバレバレだな」
「えっ。そうなんですか?」
魔族の気配にまったく気づかなかったクレアが驚く。
「懐かしい気配だとは思ったが、貴様キーメか」
「知ってるのか。ヴァ―ル」
「ああ、“継ぎはぎ”のキーメだ」
「“継ぎはぎ”?そういえば、お婆様が街に来た魔族はツギハギばかりだと言ってました」
「なるほど、ではキーメで確定だな」
「ところで、コイツ強いのか。二つ名あるんだろ」
「いいや。こいつの場合、
「黙れ。ヴァ―ル」
「我を呼び捨てか。偉くなったものだな、キーメ」
「生首だけのが何を言う」
「そういうお前こそ、姿が変わっておるではないか。前の部品は飽きたか?」
「どういう意味ですか?」
ヴァ―ルの言葉にクレアが尋ねる。
「やつはな。強さに執着していてな。強さを得る方法として、自らに強い魔獣の部位を移植したのだ。
それを行う魔族自体はそれなりにいるが、奴は手当たり次第でな。強そうな部位をつけるが、なぜ強いかやバランスを考えずに付け変えるのだ。
結果、チグハグで普通の魔族より弱い」
「ああ、やっぱゴミ屋敷の魔族で合ってるのか。姿が違うから間違えたかと思った。
たしかにアレは俺の中でもワースト3に入る弱さだった。
逃げ足は速くて逃げられたけど…。
そういえば、町でも穴を置いていっただけで、特に魔族が殺戮したとは聞いてないな。したくても出来なかったのか」
アレックスは納得したように自信を前後させる。
「ふん。好きなだけ言うがいい。吾輩は力を得て強くなったのだ」
「そうは見えんがな。立ってるのも、やっとではないのか。その口から出てるモヤ、穴のものであろう」
キーメは図星を突かれてようにたじろぐ。
「適性が無い癖に欲張るからだ。それとももう一度やれば適応するとでも思ったか」
「だ、黙れ」
キーメは怒号を上げながら後ずさるが、放置してあるゴミに足を取られ後ろに倒れる。
「だいぶ弱ってるな。暴れられると思ったのに、これじゃ戦うまでもない」
勇者はがっかりしたように言い放つ。
「馬鹿な。使い魔を通じて見たのだ。そこの人間の生首が食べるのを!こうすれば穴の力を得られるはずだ。そうでないとおかしい」
キーメはアレックスを睨みつけるが、反対に睨み返され再びたじろぐ。
「お前は何も変わってないな。なぜこいつが穴を食べても何ともないかを全く考えなかったのだな」
「どういう意味だ!」
「簡単な話だ。適性があったのだよ。それだけだ」
「そ、そんな」
キーメは絶望した様子で、がっくりと体を横たわらせ―
そして近くにあった瓦礫を手に取る。
「ふざけるな―」
キーメはその瓦礫を投げつけようとして、しかし腕が動かなかった。
「お前は、気に入らないことがあるとすぐに暴れるな」
ヴァ―ルが、キーメの腕に拘束魔法をかけ動かないように固定していたのだ。
「た、助けてくれ」
キーメは敵わないと見るや、一行に懇願し始めた。
「体中が痛いんだ。でも暴れている間だけは、気を紛らわせることができるんだ。かわいそうだろ。な?もし直してくれたら何でもするから」
「なんでこの流れでそれが通ると思うんだ?まさにチグハグ。ん、ツギハギだったか。まあいいや。どっちにしても無理だから」
「どういう意味だ、ですか?」
「俺が穴を食ったら、直せるんだよ。でも無理なんだ。
だってお前がもう食っちまったから、俺はもうお前を苦しめる穴を食うことができないんだ。残念なことにな」
キーメはゆっくりとその言葉の意味を考えた後、その意味を理解して、顔が絶望に染まっていった。
4
「それで、どうしますか?」
「えっ。どうするのも何も、殺す一択なんだが」
「いえ、そうではなく、どうやったら最上の苦しみを味合わせられるかと思いまして…」
「クレア…。くそ、あんな純粋だったこの子がこんな黒いことを!貴様のせいだキーメ。最上の苦しみを味合わせてやる」
「我も同意見だ。自業自得だと思うがいい」
「そ、そんな」
キーメは怯え始めた。
「じゃ、じゃあ。知ってること全部話します。だから許し―」
その時、一行の後ろから闇の炎の魔法が飛来し、キーメに当たる。
キーメは悲鳴を上げながら燃え続けるが、穴の影響によって治癒能力が強化されているので死ぬことができなかった。
炎による痛みと、穴による内側からの痛みでキーメはのたうち回る。
「当たった者が死ぬまで消えない炎の魔法です。
苦しみを与えたい、というのが望みのようだったのでこのように致しました。
いかがでしょう?」
その言葉と共に、闇の中から禍々しい魔力を放つ魔族が現れたのだった。
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