第8話 鶺鴒(セキレイ)
1
「建物にツタが絡まっているぞ。もう何年も放置されてるな」
「そうだな。10年以上は経っているだろう」
「穴の暴走でしょうか。でも、これは…」
「チチチチ」
廃墟になった町で話し声が聞こえる。
声の主は、一人の少女と二人の生首とセキレイである。
「うむ。穴というよりは、魔族の仕業に近いな。一部だけでなく全体的に破壊されている」
「そうだな。人間なら破壊しても金目のものは持っていくからな」
「もしかして例の魔族の仕業でしょうか」
「チチチ」
セキレイは相槌を打つ。
2
この生首と少女の一行は、とある魔族を追っていた。
前回立ち寄った町で、惨劇を引き起こした魔族が西にいったという情報を掴んだのだ。
確定ではないが、自分たちの家族の仇でもある。
三日ほど馬車を走らせたところで、この街を見つけたのだった。
「この様子を見ると、空振りかもしれぬ」
「チチ」
「確かに、なんにもないから居てもしょうがないしな」
「チチチチチチチ」
「なにか手掛かりがあればいいのですが…」
「チチチ」
「なあ」
アレックスが他の二人に話しかける。
「なんでこの鳥ついてくるの?」
「チチ?」
「ああ、これはセキレイという鳥です。人懐っこいんですよ」
「ふむ。我らが怖くないのであろうか?」
「こんなんでよく生き残れたなコイツ」
「チチチチチチチチ」
「アレックス、なにか文句を言われておるぞ。言い返してやるといい」
「いや、鳥の言葉分かんねぇし…」
「おう、すまん。人間は久しぶりだから、鳥の言葉を話しちまった」
「「「え!?」」」
小さな鳥から
3
「人間どもよく来たな。歓迎するぜ」
「えっと、鳥、なんですよね」
「ああ、間違いなくあんたの言ったセキレイっていうやつだ。鳥も長生きすれば人の言葉を話せるようになるのさ」
「嘘つけ、鳥が喋れるわけないだろ」
「そんな鳥聞いたことないわ。なにか魔物ではないのか」
アレックスとヴァ―ルの抗議に、セキレイは少し不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。
「オレから言わせてもらえば、アンタらも十分おかしい。リビングヘッドならともかく、喋る生首なんて聞いたことねぇ」
「おおう。なんか、ここにきてまともな突っ込みをされた気がする」
「緊急事態の時にきて、すぐに問題を解決したから
アレックスとヴァ―ルは、初めての指摘に動揺し始める。
「はん。アンタら、おかしいっていう自覚はあるんだな。じゃあ。それ以上は言わんよ。野暮だからな」
「なんだこいつ。そこら辺の人間より人間臭いぞ」
アレックスが一行の意見を代表して言う。
「ところでだ。飯持ってないか。ここのところまともに食べてないんだ」
「セキレイさんは何を食べられるのですか?」
「昆虫とか肉とかかな。パンのかけらでもいいぞ」
「まあ、パンくらいなら…」
クレアは持っていたカバンをの中を探り始める。
「クレアよ。なぜ食べ物を分けようとする」
パンをあげようとしたクレアを、ヴァ―ルが制止する。
「ヴァ―ル様。困ったときはお互い様ですよ」
「いや、ヴァ―ルの言う通りだ。鳥に何ができる」
「確かに。ここは弱肉強食の世界。力なきものは何も手に入らんということか」
「なんか鳥の理解が速くて怖いんだけど」
「う、うむ。我もだ」
アレックスとヴァ―ルはセキレイから距離を取り始める。
「ならば、お前らが欲しい情報をくれてやる。お前らにとって情報は力でもあるのだろう?」
セキレイの言葉に一同が驚く。
「何か知っているんですか?」
「さっき会話に出てきた魔族かどうかは知らないが、ここ近くに陰気な魔族がすんでいる。その場所を教えよう」
「本当か?」
アレックスは
「ああ。あいつが夜な夜な暴れるせいで、夜眠れないんだよ」
「例の魔族かもしれません」
「しかし、やつは先日苦しみから解放されたはずだ」
ヴァ―ルが否定する。
「アレックスが穴を食べて、ヤツは穴の影響下から解放されたはずだ」
セキレイが首をかしげながら、話を続ける
「何かあったのか。確かにちょっと前に静かになったな。最近また暴れだしたけど」
「アレックス様!ヴァ―ル様!」
「ふむ。ここまで言われると、例の魔族の可能性が高い」
「では!」
「ああ、駄目で元々、行ってみようか」
「話はまとまったか?」
一行の様子を見ていたセキレイが問いかける。
「ああ、案内してくれ」
「いいだろう。だが忘れていないよな」
「忘れる?何か忘れていましたか?」
「忘れるな。パンだ。パンをよこせ」
4
「ここだ」
一行はセキレイに、とある大きな建物に案内される。
「この建物、他の建物より豪華だな。この中にいる魔族は、見栄っ張りと見た」
「会ってないうちから判断するものではありませんよ。まあ悪趣味だとは思いますが…」
「クレア。お前も結構な毒舌よな」
その様子を見ていたセキレイが、一行から離れる。
「じゃあ、オレはこれで。飯サンキューな。パンうまかったぜ」
そういって遠くへ飛び去って行った。
「さて、俺たちも行くか」
「はい。準備はいいですか?扉を開けますよ」
「ああ、警戒はこちらに任せておけ。何が来ても守ってやる」
そうして少女と生首の一行は、建物の中に入っていくのだった。
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