第11話 坂道
1
「この道で会っていますか?」
「ああ、この坂を越えればショートカットできる」
「なるほど。山を迂回するより近い」
坂道をゆっくりと進んでいく馬車から声が聞こえる。
声の主は二人の生首と一人の少女だ。
「こんな道があるとは知らなんだな」
「魔王城に向かうとき、ここを通ったんだ」
「アレックスさまは道にお詳しいんですね」
2
二人の生首と一人の少女は、因縁の魔族と一応の決着を見た。
ブレア―と名乗る魔族から、今の魔王アイストが封印の真相を知っているかのように仄めかされる。
真実を確かめるため、一行は魔王が鎮座する魔王城へと向かうことにしたのだった。
魔王城に向かう前に、町の人々に報告するため、クレアの故郷へと戻っていた。
そして一行は、山と山の間にある谷間の緩やかな坂道を上っていた。
「しかし、こんな道よく知ってたものだな」
「昔、この近くで助けた商人に教えてもらったんだ。商人はよく使う道だそうだ」
「そうなんですか。しかし、商人が多いとなると盗賊も多いのでは?」
「それがな、ここには神様が住んでいて、悪いものを入れさせないそうだ」
「結界のようなものなのでしょうか」
「そうなると大丈夫なのか。こいつがいるんだぞ」
そういってヴァ―ルは馬車の隅にある鳥かごを見つめる。
鳥かごの中には生首が入っていた。
キーメの生首である。
決着のあと、報告がてら町に持ち帰って処分を決めるということになったのだが、捕縛している間暴れられては大変だ、ということで体から頭を切り離し、頭だけを持ち運ぶことにしたのだ。
もちろん、普通の魔族は首だけになっても生きることはできないのだが、キーメは穴の影響でそれでも死ぬ事は無かった。
「問題ない。悪いものを入れないといっても、悪人が入れないわけじゃないんだ。
正確には悪意を入れない。悪意を持ったものが通ると全身に激痛が走るってことらしい。文字通り悪いことができないんだ」
「なるほど。それでこいつはさっきから痛がっているのか」
鳥かごの中のキーメは痛みに顔を歪ませていた。
「多分な。明らかにこの坂道に近づいてから反応が強くなってるもんな。
やっぱ、こいつの反省してるは嘘だな」
「信じていたんですか?」
「まさか」
アレックスは、おかしそうに笑う。
「そういえば、なぜこちらに来るときに言わなかったのだ。大幅に時間短縮できたであろう?」
「それは向こう側から上ると、坂の傾斜がきつすぎて、すぐ馬が駄目になるんだ。
他にいろいろ都合が悪いのもあって、緊急でもない限り向こう側からは来ないそうだ」
「その話、詳しく聞きたいです」
「いいぜ。まあ全部聞いた話だけどな」
「ありがとうございます」
クレアは目を輝かせながら言った。
彼女はまだ冒険に憧れる一人の少女なのだ。
3
「結構上りましたね。そろそろ頂上でしょうか?」
クレアの発言を受けて、アレックスが前方を見やる。
「そうだ、あの大きな木があるだろ。あのあたりが頂上だ」
「はあ、やっと半分か…」
「さっき言い忘れてたけど、そこからの景色すごくきれいなんだ。今もそうかは知らないけど、自然だから大して変わらないだろ」
「相変わらず気楽なことだ」
「そうか?でも人間と魔族も大して変わってないから、自然も変わらないと思うけどね」
「それはそうなんだが…」
「そろそろ見えてきますよ」
アレックスはクレアの座る
「ヴァ―ル様も、こちらに」
「いや我はいい」
「孫が言ってるんだ。こっちにこいよ」
「はあ、そうだな。孫の言うことは聞かねばならん」
そういってヴァ―ルは、御者席に飛び乗る。
そうして馬車はゆっくりと頂上に近づき、少しずつ景色が開かれていく。
そうして、頂上に着いたとき、一行の眼下には雄大な自然の景色が広がっていた。
坂の下に広がる大きな湖。その先に広がる一面の草原。
そして人が住んでいる町がぽつりぽつり見える。
そしてさらに奥のほうに見えるのは、ここからでも大きく見える巨大な山脈。
「すごい」
クレアの口から言葉がこぼれる。
「ううむ。ここまでとは思わなかったな」
ヴァ―ルも珍しく目の前の光景に目が釘付けだった。
「ああ。俺も久ぶりに見たけど、やっぱ変わってないな」
アレックスも目を潤ませていた。
「坂の下の湖が見えるか?今夜はあそこで休もう。
あそこには集落があって、多分宿が取れるはずだ。」
クレアとヴァ―ルは下り坂のふもとにある場所見ると、たしかに煙が上がっており、人が住んでいるようだった。
「久しぶりにベットで寝れますね」
「我らは隠れなばならんがな」
「大丈夫だよ。ここにくるのは悪意のない奴しかこないから、警戒されずに入れる。
前回来た時も、結構いろんな種族のやつらがいた」
「それは昔の話であろう。今はどうなっているか分からんぞ」
「そん時はその時だろ」
「そうですね。もし、問題がありそうなら、私が町の司祭であったことを話せば大丈夫だと思います。元ではありますが、司祭という立場の人間の言うことを疑うことはないはずです」
ヴァ―ルは不満を言うが、クレアの提案を受けて渋々受け入れた。
こうして、アレックスとクレアは上機嫌で、ヴァ―ルは不安を抱きながらふもとの集落へと向かうのであった。
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