四方を海に囲まれた大陸アンスルの覇権を握らんと、強国カタピエのメリーノ公は、その武を用い他の公国公女を娶り、さらなる権力を求めんとしていた。
しかし。その娶った公女たちがカタピエからいなくなるという事件が続く。それは「月色の瞳を持つ乙女」の仕業であることがわかる。
彼女の名はセレン。神を信じる彼女は、果たしてメリーノ公の野望を阻止できるのか──。
信じる心とそして愛、それらを余すことなく描いた傑作です!
と、あらすじはこんな感じなのですが、ここでご紹介できないほどに深い物語です。
敵役のメリーノの魅力もさることながら、セレンの味方である幼馴染のクルサートル、親友のフィロやミネルヴァ先生など、まるで生きているかのようなキャラ造形が素晴らしい。
さらには名もなき衛士までカッコいいんだから、本当に凄い。そう、この物語は「凄い」んです。
さらりと書いたあらすじでは魅力を伝えきれない。だから、この物語を読んで体験して頂きたい。
カクヨムに来られている方は、何かしらの「読書体験」が素晴らしかったからこそ来ているのだと思います。そしてこの物語は、間違いなく素晴らしい読書体験になること請け合いです。
私は幼い日に夢中になった、ファンタジーの読書体験をもう一度味わうことができました。
このレビューが目に留まったあなたに、きっと素敵な読書体験が訪れることでしょう。
間違いのない「本物」を、ぜひご体験あれ!
世界は危機に瀕していた。
絶えぬ戦と天変地異。
疲弊した人々の心の拠り所となる教会さえ腐敗するなか、大陸全土の支配を目論む領主の魔の手を阻もうと、一人の乙女が立ち上がった。
いかなる窮地に陥ろうとも、乙女は果敢に戦い続ける。
一途に神の愛を信じて。
*
──という感じの西洋風シリアスファンタジーです。
大陸に伝わる神話や四神の力を秘めた珠なんて、読者の中二心を大いにくすぐることでしょう。
そ・れ・に、乙女セレンと幼なじみでもある教会総帥直属秘書官クルサートルのじれじれする関係や、セレンに一目惚れした公国領主メリーノの変貌ぶりに、ときめいちゃうかもしれません。
特に私はメリーノを推したいです!
恋する彼の可愛さを、全世界に知ってほしい。
ああ、でも、クルサートルの持つ闇もまたいいんですよねぇ……。
他にも魅力的なキャラクターがたくさんおりますし、ハラハラドキドキのストーリーも面白いので、皆さまにもぜひオススメしたいです!
大国が覇権を求め、自然災害がうち続くアンスル大陸。
その世界を救うべく、古くから伝わる教えを手がかりに、自分自身もその素性を知らない「月色の瞳の乙女」が冒険へと旅立つ。
どこから見ても、王道を行く西洋風ファンタジーです。
その一人の乙女に対して、世間的には聖界・俗界の超エリートの地位にあるはずの男どもが…もう、何と言うか、「男ってこんなのだからかわいいよね」と言うか…という行いを繰り広げ…。
その昔、といってもそれほど昔ではない昔、「セカイ系」ということばがあって、それは「個人的な幸不幸と世界の危機が無媒介に結びつけられているような作品」を意味していました。「いまどきの若いやつらはこんなので感動するんだなぁ」的なニュアンスを含んでいたと思うのですが。
この作品を読めば、「一人の人間が幸せになることと、世のなか全体が救われることとがつながっているのがむしろ当然だし、自然なんじゃないの?」と感じてしまいますよ。
世を救うのは神なのか、それとも人なのか?
その問いは、災いをもたらしているのは神なのか人なのか、という問いにも反転します。
そして、その世界で生き続ける主人公やサブキャラクターたちを描き続ける作者の視線からは、「人間」への強い信頼が伺えます。
もちろん、「大国が覇権を求め、戦乱が絶えず、自然災害がうち続く」という世界を、悲しいことに、私たちはこの物語世界以外に知っているわけで…作者の、いまの世界を見る視線の真摯さも、この物語には表れています。
また、作者の教養もこの物語の端々に表れています。たとえば、固有名詞の読みが、ローマ字に起こしたときに、後ろから二音節(ばあいによっては三音節)めにアクセントを置けば自然に読めるようになっているとか…。私はヨーロッパ生活の経験がないのでよくわからないのですが、この物語に漂う宗教的雰囲気もその賜物だろうと思います。
それに、細かいところまで表現が工夫されていて、それが伏線になっていたり、とか…。
正統のヨーロッパ風ファンタジーを堪能したい方にはご一読をお勧めします。
つくりこまれた世界観と人間味あふれるキャラクターが魅力的なシリアス恋愛ファンタジー。
ヒロインのセレンをはじめとした女性陣が非常にカッコいい本作ですが、反比例するように『がんばれ男子!』と、うっかり青春恋愛もののキャラに対するような気持ちになったりもします。
いや、相手は教会総帥の直属秘書官だったり、大陸中央にあるカタピエの領主だったり、まあ立派な大人の男性たちなんですけどね。
ちょっとー! おまえらしっかりせんかーい! とね。いいたくなっちゃうんですよ、この人たち。それがまた魅力的だったりするんですけども。
物語の鍵は、いまや伝説となっている四神の珠。
本人もその素性を知らない、美しき女剣士の苦悩。
恋愛ごとになると、とたんに不器用ボーイ、ピュアボーイになってしまう男性陣。
アンスル大陸に安寧をもたらすという四神の珠をめぐって絡みあう彼らの行く末は——
落ちついて読書を味わいたい方、しっかりつくりこまれた本格ファンタジーが好きな方におすすめしたい一作です。
かつて四神の庇護と天の祝福を受けた、大陸アンスル。その中央に坐するカタピエ公国は、名君の統治したころの面影がなくなっていました。諸侯の娘を人質として嫁に差し出させるメリーノは、権威を振りかざしていたのです。雫を散らすことしかできない花は、牢のような宮廷へ押し込められてしまいます。
手折られる運命の花を攫うのは、剣を携えた月色の瞳の乙女でした。
大陸の安寧を胸に、身分を隠して「あるもの」を追い求める男装ヒロイン。腹の内を見せない執着系ライバル、奥手すぎてもどかしい優男との気になる関係やいかに。
悪役令嬢や異世界転生などのファンタジーも良いですが、そうした作品からは味わえない圧巻の世界観をどうか堪能してくださいませ。
昔見たドラマだったか読んだ小説だったか覚えてないのですが、あえて『何もしない』ことによって、そのものの良さを伝える、みたいなシーンがあったんですよ。なんていうか、美術鑑賞を趣味にしている人が、普段は作品について解説やら感想やらを良くしゃべるんだけど、その絵画の前では何もしゃべらなくなる、みたいな。
だからね、私もいっそ、レビューとか書かない方が良いのかなとか、一瞬思い詰めましたね。あんなにレビューだなんだってギャーギャー騒いでるレビューおばさんがあえて書かない、これはすごい作品だぞ、みたいな。
でもそれをするには、私はそれこそ年間で四桁のレビューを書くくらいの人になってないと意味ねぇなと思ってやめました。そんな大層な私ではない。
ただ、レビューをためらったのは本当ですね。私のようなものに何が紹介出来るものかと。なんか、汚してしまうようで。
そもそもこちらの作者様の作品は、どれもこれもずっしりとしたハードカバーで、それももちろん、箔押しっていうんですかね、めちゃくちゃ凝った感じのやつで、図書館の奥の方にあって、夜になるとじんわり発光したりして、手に取るとその世界に入り込んじゃうみたいな、そういう映画のやつみたいな雰囲気があるんですよね。そんな完成された作品に私のようなただガヤガヤうるさいだけのおばさんが何を書けるか、っていう。
ついいつもの馬鹿丸出しみたいなコメントも控えてしっとり読んでしまいます。
内容については他の方の素晴らしいレビューを見ていただいた方が良いです。
とにかくヒロインであるセレンの聡明で、気高く、美しい。異世界ファンタジーでよく見る『聖女』とはまた違う『聖女』を感じますね。ジャンヌダルクというか、そういう方の。魔法が出て来るファンタジーではないですが、そういう派手さにごまかされない読み応えのあるお話です。
アンスル大陸の中央に位置する強国、カタピエ。
その領主であるメリーノは各国の公国公女を娶り、自らの支配を広げようとしています。
当然、輿入れした公女たちに幸せなど待っていません。このまま泣く泣くメリーノの手に落ちるのか。
しかしそうはなりません。
暴挙を働く者がいるなら、それに立ち向かう者だっているのです。
その名はセレン。教会に所属する彼女は知恵と剣技を活かしメリーノの野望を幅もうとするのですが、そんな彼女が実に聡明でかっこいい。
凛とした姿と真っ直ぐな心根は、きっと見る人の心を貫くことでしょう。
ただ問題は、メリーノもそんな彼女に興味を持った一人であるということ。
もちろん、興味を持ったと言っても、平和的に交際を申し込むような殊勝な奴ではありません。
これは、ただ敵対するだけよりもずっと厄介な存在になってしまうかも。
この巨悪に対して、セレンがどう立ち向かっていくのか。
一人の少女の冒険と活劇が幕を開けます。
アンスル大陸を治める四つの神。
その信仰を蹂躙せんとする国、カタピエ。
カタピエ公メリーノは、公国公女を集わせては、彼女たちを盾にし、大陸全土を掌握しようとしていた。
そこに現れたるは、月の瞳を持った乙女――セレン。
アンスル全土の安寧を取り戻すため、一刻も早く「神の珠」を取り戻そうとする教会総帥の直属秘書官クルサートル。
彼に助けられたセレンは、知恵と剣技を身につけ、彼の計画達成のために暗躍していた。
とある出来事をきっかけに、メリーノの狙いが公国公女ではなく、神の珠なのではないかと気づいたセレン。
だが、彼女はメリーノに目をつけられていて…。
セレンを利用しつつ、彼女を気にかけるような素振りを見せるクルサートル。
果たして、二人の関係はいかに?
舞台は神々の神話の残る、アンスル大陸。
そこには色んな国から公女を娶り、己の勢力を拡大させようとしている、質の悪い領主がいたのですが。そんな領主の思い通りにさせまいと、裏で行動を起こす者達がいた。
美しい文章と濃厚な世界観が特徴の本作。
己の使命を果たすため、正体を隠しながら暗躍する主人公セレンが、とにかくクールで格好いいのです!
領主の屋敷に忍び込んで内情を探ったり、意に反して娶られた女性を逃がしていく様は、ダークヒーローのよう。
しかしこれらの行動は私利私欲のためにやっているわけではありません。
しっかりとした信念を持って、自ら信じる正義のために、危険なミッションに挑んでいるのです。
ハラハラドキドキする展開が盛りだくさん。
格好いいヒロインが好き。濃密なハイファンタジーが好きという人に、オススメのお話です。