第8話:その後
圭が退室した後、生徒会室に3人とも残っていた。
「圭ちゃん、迷子にならずに、ちゃんと帰れるかな?心配だね。」
ケーキを頬張りながら、庵がそんなことを呟く。どうやら、大分気に入ったようだ。
「それで、本当に八王子で大丈夫なのか?」
そう問いかけてくるのは、秦弥だ。それに対し、庵がむくれる。
「秦ちゃん、ひどいー。圭ちゃんはとっても良い子なのに、そんなことを言うなん
て。意地が悪いのは秦ちゃんだよ。」
「そうは言っても、怪しいものを生徒会に入れるわけにはいけない。
生徒会役員には、重い義務、責任が求められる。分かっているだろう?」
「それは、そうだけど…」
庵が言葉に詰まる。俺が二年目ということはこいつらも二年目、この生徒会の重要性
を理解している。
「秦弥が慎重なのはいつものことだ。気にしすぎるな。それに、書記は代表挨拶をし
た者と決められている。圭以外になることはない。」
「でもだよ、まーちゃん。圭ちゃんとは会って少ししか経ってないのにそこまで慎重
になる理由がわからないよ。」
庵が縋るような目で見るだけでなく実際にコアラのように抱きついてくる。
「七星。俺はお前が一言、問題ないと、そう言ってくれさえすれば…」
今度は秦弥が言質を求める。
「出た!二人だけで共有するの、ず、る、い。秦ちゃん、白状してよ。」
怒ったふりをした庵が秦弥の膝の上にのり、肩を揺する。
「天沢には悪いが、言いたくない。」
秦弥は言葉を紡ぐのをやめ、庵は白状させようと躍起になっている。
そんな二人の攻防で生徒会の落ち着いた雰囲気は霧散し、空気が張り詰める。
「秦ちゃん、僕、本気で怒るよ?久しぶりにやりあう?」
庵はこう見えても、柔道を嗜み、細腕の何処にそんな力があるのかと思うほどだ。
「俺は、構わない。意志を曲げようとは思わないからな。」
そして、秦弥は言わずもがな、であり高身長を生かし、相手をねじ伏せる。
意外にも、秦弥と庵の実力は拮抗している。
「秦弥。庵。」
やり合おうとする二人を名前を呼び制止させる。
俺の声が掛かると、ビクッと反応した二人は一斉にこちらを見る。
「まーちゃん、」
「分かっているようだし、言うことはない。」
俺がそういうとあからさまに安堵し、生徒会室の空気が戻ってくる。
「庵。秦弥の懸念は、圭自身にあるのではなく、家にある。」
「んぅ?圭ちゃんは確か八王子だよね。僕が知ってる限りじゃ、八王子は特に問題が
ないと思うけど、名家の一つではあるけど、特筆すべき点はないところじゃ?」
「確かに数年前はそうだったが、ここ最近の八王子は黒い噂が絶えない。」
「あぁ。七星の言う通りだ。ここ最近、八王子に変化が起こっているらしい。」
「そっか。でも、秦ちゃん。圭ちゃんは関係ないかもしれないじゃん。」
「疑惑がある時点で良くない、だからこそ俺は、七星の考えが聞きたかったんだ。
だが、七星は代表挨拶をしたものが書記になるとしか言わない。」
少しだけ、一ノ瀬が悲しそうにする。だが、すぐにこちらを見る。
「まーちゃんはさっき圭ちゃんに拒否権はないって言ってたよね?
事実、今まで拒否した人間はいなかった。でも、まーちゃんは。」
「そうだ、七星は代表挨拶をしたにもかかわらず、書記にならなかった。そんな人間
は聡慧の歴史を見ても1人もいない。例外中の例外だ。そして、特例措置が許された
理由などの経緯は一切明かされていない。この学校に対し多大な権限を持つ風紀委員
長であってもだ。だからこそ、俺は八王子を入れることに、明確にいえば反対してい
た。一例があるなら、いや…」
「秦ちゃんは、圭ちゃんの家に懸念があるから、生徒会入りを避けたかったんだね。
そして、それがまーちゃんにならできるとも思ってる。ごめんね、秦ちゃん
は生徒会のこともたくさん考えてくれてたのに…」
「俺が、八王子という人間を見ていないのは事実だ。だが、あいつに問題があった場
合、責任を取るのは生徒会で、迷惑は生徒にかかる。それに学園内のバランスさえも
崩れてしまう。その事態を簡単には容認できない。俺がお前の掌の上にいることぐら
い、とっくの昔に把握している。だから…」
生徒会に沈黙が落ちる。秦弥の声は、か細くなって行き、最後には途切れた。
相変わらず、真面目すぎる。本当に、風紀委員長の役が似合いすぎる。
いつも正しく、中立を貫き、学園を支える。さすが、攻略対象だ。
それは、庵もだ。
「問題ない。圭を生徒会に入れても、お前が懸念することにはならない。」
その言葉は生徒会室の空気を揺らす。俺は、答えなければいけないのだろう…
そして、言ったからには起こさせてはいけない。
秦弥は目を見開き驚いた後、嬉しそうに微笑をこぼす。
庵は嬉しそうに破顔する。そして、互いに視線を交差させる。
「秦ちゃんが、笑ってる…いつもの恐い笑顔じゃなくて、女の子の腰が砕けちゃうよ
うな笑顔で。どうしよう。明日は雪が降るかも。」
「天沢。俺は気が短いと言われたことはないんだが、少し腹が立った。」
「もう、戻ってる。だって、秦ちゃんがあんな笑顔で笑うことなんてないんだも
ん。びっくりしちゃった。ね、まーちゃん?」
「あぁ。そうかもしれないな。」
終わってみれば、
その後は自然と仕事に戻っていき、新入生歓迎会の直前準備を進めた。
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