こんなモブは存在しない!!

カヲル

第1話:回想

辺りを見回すと俺は知らないところに立っている。何もない空間。


これは、夢か…?何故か、目が覚めない。現実から逃げている自分に失笑する。


それなのに、胸が締め付けられたようにくるおしい。


白い部屋、そしてベッド。ここは、病院なのか? 


嗚呼、あれは。一度たりとも忘れたことはない…懐かしき母だ。誰かを抱いている?


母はこちらに気付き、驚く中にも嬉しさを隠さない表情で話しかけてきた。


眞央まひろ、来てくれたのね。嬉しいわ。真央まさふみさんは…


相変わらず、私に興味がないのね。そして、この子にも…」


「母上、そちらの赤ん坊は?」


誰とは聞かない。なんとなく察しがついてしまうから。


「そうね、私が妊娠してから、会うことを禁止されていたから、知らないわよね。


この子は、眞央、あなたの弟の_よ。この子を大切にしてあげてくれるかしら。」


聖母のように心優しき母、その母に抱かれる生まれたばかりの弟。


家族の形は存在しているのに、俺にその手が届くことなど、あるのだろうか?


寒い冬、雪が舞い落ちる。音は聞こえないはずなのに、まるでシトシトと。


俺が答えようとしていたのに、答えさせないように目の前が黒くなっていく_




陽が出始め、雀のさえずりが聞こえる。


「おはようございます。眞央様、目をお覚ましください。」


目を開けて、起き上がると広い部屋が目に入る。


黒と白に整えられた部屋は寝起きの目には落ち着く。


「眞央様が起きていらっしゃらないのは珍しいですね。何かございましたか?」


そう話かけてきたのは初老の執事である山本だった。


「たまにはそういうこともあるさ。今日の予定は?」


あまり触れられたくなくて、誤魔化す。


山本は、体調が優れないと考えたようだ。主人の変化をよく見ている。


「今日は、8時30分から高校の入学式。20時から七星ななほし家の会合、


22時から執務仕事がございます。お忙しいのでお身体にお気をつけください。」


「ああ。わかった。いつも感謝している。」


「ありがたきお言葉にございます。」


「事実を言ったまでだ。身支度をするから車を手配しておいていくれ。」


「かしこまりました。」


執事が下がったのを目で追った後、身支度を始める。


制服に袖を通し、髪の毛をセットする。


鏡を見ると、赤髪に紫の瞳を持ち、涙黒子が印象的な男がこちらを見る。


制服の上は、白でラインが入っており、ネクタイは赤、下はグレーになっている。


こうして、順調に準備が進められていく。




庭に停められた黒のフェラーリの中へ乗り込むと目的地は学校へと向かう。


「「「「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」」」


使用人に見送られながら、その場を後にする。


俺は車の中で揺られながら、今朝見た夢について思いを馳せていた。


父親と母親は、俺が幼い時に離婚している。


母は父を愛していたが、父は母が必要ないと判断したらしい。


俺には、生まれたばかりの弟がいたが、父の決定で母の方に連れて行かれた。


父親は七星のために生きている。と言うよりもそう生きるしか知らないのだろう。


父を、母を、誰かを、恨んでしまえば、狂えたのかもしれない。


父は俺に、孤独であることを望んだ。理想の強さを願った。そのために教育した。


だが、俺は…


桜が満開に咲いている、春。窓から景色を眺めると、素晴らしい青空で。


まるで、世界が祝福しているようだ。








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