概要
聞いていただけますか。あの方の博愛と復讐の結末を。
市民革命によって王政は終わり、聖王国は共和国に姿を変えた。王の長女であったオリヴィア王女を初めとして有力な王族は皆戦場や処刑台に散っていき、その国は人々のものとなった。
――革命政府の成立から五年、終戦から三年。人々の日常が段々と戻りつつある時期。
銀行員の青年アンリは家への帰り道でマリーと名乗る女性に声を掛けられる。聞いてほしい話がある、と。
「私は昔、王女殿下の侍女をしていました」
そうして始まったマリーの話は、思いもよらぬ方向に進んでいく。病死した革命の英雄、男装の聖女フランソワの真の姿。それはアンリに変革をもたらし、彼はある決断を下す。
『僕たちは生きている。ただ一市民として日常を生きている。信念より命を、人類よりも知己を、――理想より現実を、選び取って生きている。それを奪
――革命政府の成立から五年、終戦から三年。人々の日常が段々と戻りつつある時期。
銀行員の青年アンリは家への帰り道でマリーと名乗る女性に声を掛けられる。聞いてほしい話がある、と。
「私は昔、王女殿下の侍女をしていました」
そうして始まったマリーの話は、思いもよらぬ方向に進んでいく。病死した革命の英雄、男装の聖女フランソワの真の姿。それはアンリに変革をもたらし、彼はある決断を下す。
『僕たちは生きている。ただ一市民として日常を生きている。信念より命を、人類よりも知己を、――理想より現実を、選び取って生きている。それを奪
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!王にならなかった「王子」と王になれなかった王子、二人の運命は
作家にとって、世襲制のもつジレンマ――世継ぎがいなければ存続できず、世継ぎが多すぎれば後継者争いの種になる――は絶好の題材である。おとぎ話からお家騒動まで、実に多彩なバリエーションが存在する中でも、一度王制をリセットする「革命」が王位継承者の運命を翻弄する話は、実は割と難しかったりする(王位を追われた王族が玉座を奪還するのとは異なり、戻るべき玉座はもう無いのだ)。何度かそのネタで短編をものしようとした自分が言うんだから多分間違いない。
しかしこの作品は、世襲制の持つ王位継承のルールにもてあそばれ、革命という歴史の衝撃に翻弄された王族の数奇な運命を、聞き手と語り手、二人の男女のやり取りで描き出…続きを読む - ★★★ Excellent!!!愛は人を生かしも殺しもする。フランス革命を舞台に描かれた美し過ぎる物語
フランス革命をモチーフにした物語は数多くありますが、本作はその傑作の一つと呼んで惜しくないでしょう。
薄絹のベールのように滑らかな、かつ艶めいた筆致。静かなモノローグは読む者を幻惑の縁へ誘います。
愛は人を生かしも殺しもする。それはなんと残酷で、幸せなことでしょうか。
物語の主軸は何と言っても聖女フランソワ……その情熱で王座を焼き払った男勝りの麗人の薔薇が散る様にも似た生き様にありますが、拝読後、私の胸にあるのは、激動の時代を生き抜き、その生の意味をようやく見つけたアンリとその同居人……彼ら二人への祈りです。彼らの平穏が、どうぞこの物語の中だけでも永遠であって欲しいと望むばかりです。