作家にとって、世襲制のもつジレンマ――世継ぎがいなければ存続できず、世継ぎが多すぎれば後継者争いの種になる――は絶好の題材である。おとぎ話からお家騒動まで、実に多彩なバリエーションが存在する中でも、一度王制をリセットする「革命」が王位継承者の運命を翻弄する話は、実は割と難しかったりする(王位を追われた王族が玉座を奪還するのとは異なり、戻るべき玉座はもう無いのだ)。何度かそのネタで短編をものしようとした自分が言うんだから多分間違いない。
しかしこの作品は、世襲制の持つ王位継承のルールにもてあそばれ、革命という歴史の衝撃に翻弄された王族の数奇な運命を、聞き手と語り手、二人の男女のやり取りで描き出した格調高い逸品である。短編なのですぐに読めるが、読み終えた後はしばらく余韻に浸れるので、今すぐ作品をクリックして存分にこの世界を味わおう。
フランス革命をモチーフにした物語は数多くありますが、本作はその傑作の一つと呼んで惜しくないでしょう。
薄絹のベールのように滑らかな、かつ艶めいた筆致。静かなモノローグは読む者を幻惑の縁へ誘います。
愛は人を生かしも殺しもする。それはなんと残酷で、幸せなことでしょうか。
物語の主軸は何と言っても聖女フランソワ……その情熱で王座を焼き払った男勝りの麗人の薔薇が散る様にも似た生き様にありますが、拝読後、私の胸にあるのは、激動の時代を生き抜き、その生の意味をようやく見つけたアンリとその同居人……彼ら二人への祈りです。彼らの平穏が、どうぞこの物語の中だけでも永遠であって欲しいと望むばかりです。