第6話
11月19日
鍛冶六さんに置いたフリーペーパーは、ちょっとずつ読まれている手応えを感じていた。
「なぁに、千里の道も一日から、だ」
棚の主になったら、店主のはまださんから棚子通信、という謎のメールが一斉に届く。これもまた『ちょっとした経営者になったのだな』と思わせる日常の変化であった。
私は社長を気取って、メールの内容を確認した。そこには大阪の堺市HONBAKOさんから、本好きを広めるイベントでコラボしましょう! ということが書かれていた。本のバトン、という運動らしい。これは本好きの私のアンテナにビビッときた。合同会議も来年開かれるようだ。
なんという甘美な響き。合同会議に出席。これはもう完全に社長の業務の一環である。
ふと興味を持って一年間、思い切って棚の主となる契約をしてみたが、ありふれた日常が、だんだんスペシャルなことになっている。自分で動かなければ人生なんて何も変わらない。
そして先日名刺を頂いた、番頭の川野さんからは、業務命令も届いていた。テーマに沿って本を紹介しよう、というものであった。
お題はクリスマス。こうなるとミステリ好きの私は、クリスティの名作、アレをプッシュする他はない。読んだ人はきっと満足してくれることだろう。
嫁さんは本で溢れる私の部屋を見て『読み終わった本、処分せんかい』というような目で見てくるが、粗大ゴミに出してたまるか、と。読み終わった本は、私が紹介文を書き、次の本好きさんに届けるのだ。
そして日曜の朝、私の新たなルーチン、起業読本の続きを読む。
【05 誰かが出した広告でビジネスのネタ集め】
これはちょっと視野が広がった。世に溢れかえる広告、それが経営のヒントになる、というのだ。日常のどこにでもある広告。何故そこに置かれているのか、を考えたことなど一度もなかった。
その章では、ちょっと高級なスーパーの出口に、学習塾の小冊子が置かれていたそうだ。『勉強が大嫌いな子のための塾』というタイトルで。
そこで筆者は塾の広告なら新聞折込にすればいいのに、何故わざわざコストのかかる小冊子を印刷したのだろう。と考えたそうだ。
そして高級スーパーに行けるのは裕福な家庭、そこの奥さん、子供が勉強ができなくて困っている。広告の狙い目はその層なのだな、と考えが至ったようであった。
ありふれた広告をどこにどうやって出すか、今の私の環境ではちょっとスケールの大きすぎる話だ。
せめて自分の棚には〜こういうジャンルに特化していますよ〜みたいな案内は付けた方が良いかな、と思ったり、それでもやはり基本は本好きの気持ちの伝播、そしてそこでしか手に入らないスペシャルなもの、の創造しかない、と思うのであった。
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