一棚書店やてみた

呉エイジ

第1話

11月8日

 7日の夜に契約を済ませて、翌日は仕事。社長気分でウキウキしていたのは午前中まで。

 姫路の網干に店を構える鍛冶六さんでは、棚子の本が売れたらSNSで告知をしてくれる。その日、私の本は一冊も売れなかった。正直愕然とした。結構手の込んだ事をしてアピール出来るはずだ、という妙な自信もあった。

 私は初日から『商売するのは大変だ』と痛感したのである。これが自身で店をオープンしていた場合ならどうだろう。一円も回収出来ず、冷や汗が滝のように流れ出た事であろう。

 オープン前の『初日に一冊、いや、二、三冊は売れるかな』というこの希望的楽観さ加減はどうか。

 人からお金を頂く、というのはここまで大変なことだったのだ。

 焦りもありつつ、昨日は水曜日、平日であった。

土、日や祭日に、どれだけ成果が出せるか。

 そこまで取り敢えずは待とう、と思った。

 平日に動けるのは平日に休みの人か、専業主婦だろう。本好きの中年男性にアピールする棚である。

 休日を乗り越えた結果から、次の一手を考える事にした。


11月9日


 オープン2日目。淡い期待は脆くも崩れ去った。

この段階でも、2日目は一冊でも売れてくれるのではないか、という儚い望みは通勤中、胸に抱いていたのだ。結局、SNSでも棚子販売の情報は報じられなかった。

 他の棚子さんはどうなのだろう。

この一棚書店にめちゃくちゃ思いを込めてる、という感じではなく、余儀としてのんびり構えているのだろうか。私は気が気では無かった。呉エイジ文庫オープン2日目で収入ゼロ。

 嫁さんと共同出資して始めていれば、きっとぶっ殺されていたところだろう。

 もっと目立つ細工を施したほうがいいのだろうか。

 会社の帰り、百均に寄って、段差で置いて、奥の本の背表紙が見えるブックエンドを買った。



 この鍛冶六さんというのは、明治から営業している金物屋さんをリノベし、陳列棚を一般に開放して姫路初のシェア型書店と地下では酒の販売。雰囲気のある吹き抜け。二階には明治の文豪が執筆したであろうような和洋折衷の部屋があった。

 酒はあいにく下戸で駄目だが、古本には目がない。自分で棚を持ち、書店を出せる。なんともワクワクする話ではないか。

 他の棚主さんはどうなのだろう。売り上げや戦略はどんな感じなのだろう。見た感じ、店舗は十店ほど出店しているような感じだ。

 鍛冶六さんでは定期的に『棚子会議』というものが開かれるらしい。これもなんとも面白そうな話である。運営の戦略について話し合いをするそうだ。

 私も棚の社長、としていずれ出席したい。

 月の利用料が千五百円ほど。大儲けできるとは思っていないが、せめて古本の売上で月の利用料は賄いたいところだ。

 半年、一年契約だと割引でお得らしい。店主のはまださんに教えられ、私は思い切って一年契約した。虎の子の二万円を差し出した。

 今、私の財布は、向かいの家の中学生より所持金が少ないであろうと思う。えらいことになってしまった。背水の陣を敷きまくりである。ちょっと足を滑らせて、ドブに片足がはまったかもしれない。

 とにもかくにも、この土、日が目安となろう。

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