第8話

 サラリーマンをしつつ、執筆スピードは大分落ちてしまったが、それでもAmazonのKindleで『我が妻との闘争』シリーズの電子書籍を毎年出版し、そこそこの印税を得て、そして2023年、姫路は網干区の新在家644にある本と酒の店、鍛冶六さんで棚の主となり、読み終わった古本を紹介して販売しよう、と決意した経緯はここまで記してきた通りである。


 その棚主の日々のルーチンとは一体どういったものか。残業を終え、家に帰り、素早く食事と風呂を済ませ、眠気と闘いながら、私は読み終わった本を手元に置き、炬燵に座る。


 そして一冊手に取り上げ、その本の思い出や紹介、オススメポイントなどを付箋に書いて貼り付ける。そして汚れないようにナイロンに封入して、棚へ補充しに行く。


 仕事で疲れているので、この作業もヘロヘロで行っている。やはりずっと同じ棚、というのは、常連さんの場合、面白みに欠けると思うので、月に一度は半数くらいは入れ替えを行なって、目を引きたい、という考えはあった。


 そして管理用に手書きで目録を書く。これも睡魔との戦いである。


 そんな中、鍛冶六の女性番頭さん、かわのさんから業務連絡メールが来た。今月の収支報告であった。


 私の生まれて初めての経営者としての結果が、そこには記されてあった。


 諸経費を引いた売上 342円。


 や、やった。ゼロ円ではなかった。これがゼロ円なら相当失望していたことだろう。それでも素人なりに棚をデコレーションし、全力で考えた結果である。


 あとは反省と改良と情熱の問題であろう。


 得意な分野である小説の印税の額なら落ち込みもしたであろうが、なにぶん経営は初体験である。ここからトライ&エラーを積み重ねて、業績を上げていけば良いのだ。


 メールには続けて、理知的で本の好きそうなかわのさんから、丁寧な言葉が添えられていた。


 呉様、契約時に銀行振込を選択されておりましたが、次回来店された際、手渡しでよろしいでしょうか?


 私は自分の行動プランの無さ、杜撰さに、恥ずかしさからスマホを握って赤面してしまっていた。


 すいません、すいません。それで結構です。貯金箱を持参しまして預けますので、売上金はそこへ投入ください。来年の棚利用の資金貯金とするつもりです。


 若い人に気を使わせてしまった。


 ええい、何事も初めての経験よ。額は少なかったが、それでも人生の新たな第一歩、給料、印税に加えて、売上、という収入が加わったのだ。

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