第4話
11月15日
前日の夜までかかって、今年のキンドル本、我が妻との闘争2023に収録予定の一本を、先行配信という形でフリーペーパーを製作してみた。
冊子を作るために購入した『パーソナル編集長』というソフトで出力した。
それもこれも、全ては鍛冶六さんに間借りしている本棚の販促活動である。
それにしても商売というものは難しい。
余っても恥ずかしいので、とりあえずは五部、印刷しておいた。
そして再び起業に関するハウツー本を読み進める。
・チャプター04 〜商売とは普通に売っているものを売る〜
これは納得できた。自信があっても奇抜なものは起業したての頃は我慢せよ、会社に体力がついてから取り組めば良い、というアドバイスであった。
これはなんら問題はない。扱っているのは本である。
「さて、そろそろ棚の補充に行ってみるか」
私は作ったフリーペーパーと、その告知ポップを持ち、車を走らせた。店に着くと店主のはまださんは留守のようであった。
挨拶をすると、2階から『は〜い』という可愛らしい女性の声が聞こえた。私は改めて挨拶をした。
「こんにちは。呉エイジ文庫です。棚の補充に来ました」
「そうでしたか。よろしくお願いします」
その理知的で本が好きそうなお嬢さんは名刺を差し出した。鍛冶六書店 番頭 かわの とあった。ここではスタッフではなく番頭と呼ぶのだ。
建物にマッチした、なんとも似合いの響きではないか。
私は百均で揃えた棚や小物類を並べ、本の並びの見直しを始めた。
『カランコロン』
後ろで扉が開いた。お客さんのようである。私は棚の補充を急いだ。すると背後から声をかけられた。
「一冊ずつ、コメントを書かれているんですか?」
「ええ。読んだ本ですので、コメントで興味を持ってもらえればな、と」
「フリーペーパー、よろしいですか? 今日はそれ目当てで来たんですよ」
「ええっ?!」
神よ。あなたはまるでドラマのような展開を用意してくださる。丁度補充に来た時に、私の読者さんが同時に来店するとは。作ったフリーペーパーは早速一部、旅立って行った。
「大昔から読んでます。連載も。ネットが117ネットだった頃から」
なんとも懐かしい。117ネットとは今は無くなってしまったが、姫路のプロバイダーであった。私の原点ともいうべきアドレスである。
「とうとう本物の呉さんを見てしまった」
「面が割れてしまいましたね(笑)」
エックスでフリーペーパーの告知を前日して、翌日早速需要があるとは思ってもみなかった。やはり今日、足を運んで良かった。
「どんな本を読まれます? 純文学とかは?」
「純文学とかは余り、ほとんど読みませんね。呉さんオススメありますか?」
「堀江しのぶ写真集とかオススメですけど(笑)」
「いいですね。呉さんとは同学年のはずです。僕は河合奈保子でしたね」
「あー、今でも値崩れしてませんね。河合奈保子ちゃんは。私はアイドルCDも収集してまして」
「金平さんとでしょ?(笑)」
本当に良く読んでくれている方であった。
「じゃあこれなんてどうです? 昭和のミステリ作家の短編集、土屋隆夫です。ちょいエロもたまに入ります」
「呉さんがオススメするんなら読んでみようかな」
や、やった! 呉エイジ文庫、オープン以来ようやく待望の一冊である。でもかなり泣き落としの販売ではあったが(笑)。
他の本棚も見たそうにしていらしたので、私は余り出しゃばらず、礼を言って私は店を後にした。
なんたる充実。私の好きなオススメ本が旅立ってくれた。良かった。色々やってみて本当に良かった。
私はニヤニヤしながら帰路に着くのであった。
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