第11話

【本のバトン】は大盛況のうちに幕を閉じた。この後はレトロなモダン建築の中での棚子会議が行われる。


 会議も初参加であるのに、今回は大阪のHONBAKOさんの所の棚主さんとも合同で会議するようであった。遠方なのでノートパソコンからビデオ会議で参加される棚主さんもいるようだ。


 一階の中央に、先ほどまでイベントで並べられていた沢山の本を片付けた後に座布団が並べられ、いよいよ初参加、会議の始まりである。


 一棚店主の社長……、気取って参加をしてみたのは良かったが、一体どんな方々が棚を運営されているのだろう。


 自分も参加しておいて言うのもなんだが、年間、約二万円ほど使って、自分の棚を運営するのだ。世間一般の娯楽に照らし合わせれば、それはやはり【変わった人】に分類される人々なのではなかろうか。


 二万円あれば、旅行をする、美味しいものを食べ歩く、お洒落に使う、などが普通の感覚ではないだろうか。それを二万円も突っ込んで棚を借り、そこで推しの本を紹介する。そんなことにお金を使う感覚の人間は、同じ町内に一人、いるかいないか位の感性ではなかろうか。


 どんな人達が集まるのだろう。変わったクセスゴの人たちだらけだったらどうしよう。そんなことを考えながらネームプレートの置かれている机の前に座った。


 すると店内にいた私がお客さんだと思っていた人たちが順番に座り出した。年配の男性も、若い女性の方もいた。みんな棚子さんだったのか。


 番頭のカワノさんが注文を聞きに来た。会議の時はワンドリンク制なのである。


「飲み物、何にされますか?」


「じゃあホットコーヒーで」


「では百円いただきます」


「百円でいいんですか?」


 思わず私は大きな声で聞き直してしまい、ちょっと恥ずかしかった。こんなムードのあるレトロ建築の中で飲むコーヒーだ。四百五十円をくらい勝手に想像していたのだ。


 机の中央にはノートパソコンが開かれ、ビデオ会議の画面になっていた。大阪から参加される棚主さんたちであろう。


 私はコーヒーを飲みながら失礼にならないよう、ゆっくり集う面々を見渡した。皆さん変わった方には見えない。ブティックの店員さん、ペットショップの店員さん、学校の先生、医療従事者、熟練職人、スポーツトレーナー、謎の旅人、そんな感じの人々だ。


 皆さん、自分の小遣いから棚を借りて自己表現している人たちだ。ということは、皆、根っこのところは似ている、ということである。そんな人たちに普段、会う機会がない。会社の同僚との会話など、上司の愚痴、野球の勝ち負け、欲しい車の車種、そんなところで、小説の話をできる人など周りに誰もいない。


 真横でそんな人たちの考えが聞ける。それだけでも嬉しくなってくるのであった。


 正面には大阪のHONBAKOさん代表が座っていた。今日は貴重なお話がたくさん聞けそうである。


 鍛冶六の店主、ハマダさんが合同会議の開始を告げた。

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一棚書店やてみた 呉エイジ @Kureage

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