シャーマニズムと遊牧部族の草原で繰り広げられるミステリ
- ★★★ Excellent!!!
立場ゆえに、敵対していた氏族の元へと嫁入りさせられる少女、ツェグナ。
彼女のわずかな希望は、嫁入り先の氏族で起こった悲劇、そして惨劇によって断ち切られました。
一見してファンタジックな舞台ですが、読み進めて行けば、現実の歴史における遊牧世界の厳しさをも実に詳細に、しっかりと描いています。
限られた水や牧草をめぐり、部族や氏族のあいだで争わねばならない苛酷な世界。
その自然からの恵みや啓示を請いねがい、怒りを避ける血のにじむ習慣や掟。
氏族を襲った連続殺人は、その舞台に密にからんだ仕掛けで。
そしてその動機は、そんな舞台を土壌として生まれた哀しいものでした。
そしてそれゆえに、肉親を失ったその真相を解き明かすため、自身を仇敵とさげすむ視線すら向ける氏族を救うため、謎に立ち向かう主人公の知恵、優しさ、そして強さが、話しが進むほどに美しく響きます。
作品と終章の題、そして最後の一語に籠められたその響き、どうぞ聞いてください。大いなる天と川とともに。