銀行員が狂言回しとなり闇の世界を語るシリーズの第三弾。舞台は東京都丸の内の一等地。日本の中枢に分け入ったとなれば総仕上げでしょうか。
読み進めると、怪奇の中核は人間の命の灯火を操る秘術と分かります。となれば、生きるために払う代償を工面するために苦労する様を語る、様々な物語を読者は思い出します。
そして読者は独りごちるでしょう。また代償の話か、と。
この物語は、さにあらず。
一刻も長く生きたい権力者が抱く妄執を延々と浴び続けた組織体は、制度劣化が進み継続が危ぶまれるも歴史が長すぎて容易には手出しできません。その腐敗しきった組織を、欧米と対峙しなければいけない現代日本のメインバンクが持つ短いタイムスケールで再生できるのか。
その中心に囚われた人物は、自身の残りの命を自身のために振り向けられるのか。
腐敗した企業の再生と、傷ついた人間の再生。二つが分けがたく結びつきます。
行き詰まった組織と人間を、銀行員が部署の総力を挙げて救出に奔走します。「これはお話さ」。そう思えども、自らを「バンカー」と呼ぶ人間が抱く矜持と意地を見て、読者は、困難なプロジェクトの成功を祈るようになります。
数奇な運命を語りつつ、運命に閉じこもること止め抗う姿を描いた、数奇な物語です。
この世のものならざる存在たちに愛される太白星こと藤崎諒太の、シリーズ最大の危機にして最後の冒険譚(今のところ!)です。
スーパースターの異名を持つメガバンクの太白星、藤崎諒太が朋友田坂優斗と向かったのは、東京都心の真ん中にありながら、喧騒から取り残されてしまった『神隠しの竹藪』の奥にたたずむ髙佰(たかつかさ)家。『死人返し』の不穏な噂がささやかれる髙佰家には招かれたものしかたどり着けないという……
『櫻岾奇談』『猫魔岬變』という、存在感の塊のようなふたつの長編と、綺羅星のような幾多の短編を経た果てにたどり着いた、本作『神隠異聞』。もちろんこの一作だけでも楽しめる作品ですが、この濃厚な旨味を味わい尽くすには、ぜひとも『櫻岾奇談』『猫魔岬變』の二作だけでも、先にお読みいただきたいところです。
というのも、独自の美文で語られる本作は、決して筋の追いやすい物語ではありません。一話ごとに語り手が交替し、ストーリーはいくつもの糸が絡まり合いながら進んでいきます。主な登場人物たちについて、じっくりと予習をし、妖しくも美しいこの物語を最高に楽しんでいただきたいのです。
藤崎諒太や田坂優斗の人となりや、彼らを取り巻く人間模様を知ったうえでこの『神隠異聞』に足を踏み込めば、この独特の世界観に強烈な懐かしさを覚え、あっという間に話のとりことなってしまうことでしょう。三つの長編を読了した暁には、サイドストーリーの短編を次々と読んでしまうこと必至です。
例え摩訶不思議があろうとも、なんとかなってしまうであろうと思わせてしまう信頼しかない藤崎さんですが、
今回はちょっとばかり勝手が違って、
部下の命がかかっていたり、周囲視点からすれば初めての危機を迎えていたりします。
今回の顧客は都心の案内がなければ屋敷に入ることもできない曰く付きの女性。
みんな勢揃いで、シリーズファンには楽しい回です。
作者さんが独自の文体を確立しておられて、これからAIの要素が増えると予想される中、そうでないものを求める方はフォローしておくといいと個人的に思っている作家さんです。
古雅な表現と現代的な文章がバランスをとって魅力的になる接合部を探っているような、替えがきかない個性を放っているところをすごく推してます!
櫻岾、猫魔岬と続いた曰く付きの支店勤務から、ついに東京へ返り咲いたメガバンクのスーパースター・藤崎。
しかし、ここで任される案件もやっぱり“曰く付き”。
今回任された顧客は、卜占を生業にしている超富裕層の髙佰家。
髙佰家が屋敷を構えるのは、都心にありながら、現代社会とは隔絶されたような怪しい雰囲気の場所。そこはまさに容易には立ち入ることの叶わない異界のような場所だった。
そしてそこで本当に巨額のお金を生み出していたのは、なんと“死人返し”という死者蘇生の技。
現髙佰家当主の本当の依頼とは──。
藤崎たちはその依頼を遂行できるのか──!?
案件に関わるメンバーは、実は…!??
わたしは著者のこの一連の作品には決してモブはいないと思っている。
どんな人物にも背景があり、何かを体験している。
それ故に、物語はどんどん枝葉のように広がって、登場人物たちはその存在を立ち上がらせてくる。
読み始めたが最後、更新が楽しみで仕方がない!
一体どういう結末を迎えるのか!?
ぜひ、この世界をご堪能ください。
都会の銀行員たちの日常と、じわじわ滲み出す異界の気配が交錯する導入がとても素敵です。マイナス金利や店舗削減などのリアルなお金の話が、そのまま「見えないマイナス」を刻むホラー要素に繋がるのがこの作品の特異なところになっています。
怪談を大喜びで追いかけに行く藤崎と、常識人だけど巻き込まれていく周囲のやり取りが軽妙で、読んでいる側も「怖いのに楽しい」感覚になれること請け合いです。
銀行×怪談という組み合わせの妙と藤崎ウォッチング組や、山本五郎左衛門為時という強烈なキャラクターも一人一人が怪談の語り部としての魅力があります。
現実と異界が混じるような雰囲気が好きな方にお薦めします!
【概要】
メガバンク勤務の藤崎諒太は、美形で洞察力や行動力があり、仕事もデキるスーパースター。通称:太白星
北海道の支店での勤務を終えた彼は、富裕層に特化したビジネスの拠点長に任命される。
顧客は、占いや死者蘇生を生業にしているという”髙佰一族”。
良識的で落ち着いた雰囲気の、同期で良き相棒のイケメン田坂優斗。
物ノ怪の王と同じ名前を持つ、山本五郎左衛門為時。
幼い頃から毎年現れる謎の存在を見てきた、西洋の人形のような美しさを持つ西園寺遥。
PB拠点の個性的な面々が、髙佰一族の秘められた謎に迫っていく。
【感想】
作者さんは金融の現場に詳しい方?メガバンクのリアリティと怪異の世界観が自然に溶け合っていて、とても面白いです。
語彙も豊富。
カッコいいキャラクターたちは魅力的で、会話の駆け引きも巧く、活躍に見入ってしまいます。
読み進めるうちに少しずつ謎の核心に近づいていき、ミステリーとしての満足度も高いです。
彼らがこの問題をどう解決し、どんな結末に辿り着くのか必見です!
<第1.2話を読んでのレビューです>
東京駅周辺の雑踏に紛れ込む、主人公の静かな目線から物語は始まる。都会の規則正しい流れの中で、銀行の支店閉鎖やマイナス金利の現実が淡々と描かれる。数字と制度の説明が続く中、主人公の心理は静かに揺れ、読者は都市の裏側に潜む不安と異様な気配に引き込まれる。
竹林に迷い込んだかのような「隠世」や、薄暗い四ツ辻に立つ異様な提灯の描写は、日常と非日常の境界線を巧みに曖昧にする。主人公の思考の細やかな追従、背後に漂う不安、そして仕事として訪れる恐怖のバランスが絶妙で、都会の現実感と異界の神秘が同時に立ち上がる。
文章は淡々としているが、視点の揺らぎや身体感覚の描写が丁寧で、読者は主人公と共に竹林を進むような臨場感を味わえる。銀行の現実と、異界の謎めいた要素が同居する構造は巧みで、静かな恐怖と軽妙な会話が交錯することで、独特の緊張感を保っている。
日常の裏側に潜む異界、そして淡々とした業務の合間に現れる非現実が交錯する描写は、都会生活の虚実や、個人の立場の脆さを静かに浮き彫りにし、読み手の好奇心と恐怖心を静かに揺さぶる、洗練された幻想譚のはじまりです。
それは、都心にひっそりと息づく『異界』だった。
北海道・猫魔岬での支店閉鎖を成功させ、東京本丸に戻った銀行員・藤崎。
次の配属を待つ彼に下された辞令は、ただの異動ではなかった。
舞台は、鬱蒼とした竹林に囲まれた都心の奥座敷。
『髙佰家』という名の、一切を秘匿された謎多き富裕層一族。
神隠し、卜占、死者蘇生。
都市伝説のような言葉が現実に顔を覗かせる中、
一部の者だけが、その屋敷の門をくぐることを許された。
新たに設立されたプライベートバンキング拠点。
それは「支店」ではなく、「謎多き富裕層」に仕えるための特殊な部署。
その任務は、金融か、それとも祓いか。
誰も知らぬ領域に、藤崎は足を踏み入れていく。
辞令から始まる、怪異と金融の交差点。
東京のど真ん中で開かれる、目に見えぬ扉が今、音もなく軋む。