都会の銀行員たちの日常と、じわじわ滲み出す異界の気配が交錯する導入がとても素敵です。マイナス金利や店舗削減などのリアルなお金の話が、そのまま「見えないマイナス」を刻むホラー要素に繋がるのがこの作品の特異なところになっています。
怪談を大喜びで追いかけに行く藤崎と、常識人だけど巻き込まれていく周囲のやり取りが軽妙で、読んでいる側も「怖いのに楽しい」感覚になれること請け合いです。
銀行×怪談という組み合わせの妙と藤崎ウォッチング組や、山本五郎左衛門為時という強烈なキャラクターも一人一人が怪談の語り部としての魅力があります。
現実と異界が混じるような雰囲気が好きな方にお薦めします!
【概要】
メガバンク勤務の藤崎諒太は、美形で洞察力や行動力があり、仕事もデキるスーパースター。通称:太白星
北海道の支店での勤務を終えた彼は、富裕層に特化したビジネスの拠点長に任命される。
顧客は、占いや死者蘇生を生業にしているという”髙佰一族”。
良識的で落ち着いた雰囲気の、同期で良き相棒のイケメン田坂優斗。
物ノ怪の王と同じ名前を持つ、山本五郎左衛門為時。
幼い頃から毎年現れる謎の存在を見てきた、西洋の人形のような美しさを持つ西園寺遥。
PB拠点の個性的な面々が、髙佰一族の秘められた謎に迫っていく。
【感想】
作者さんは金融の現場に詳しい方?メガバンクのリアリティと怪異の世界観が自然に溶け合っていて、とても面白いです。
語彙も豊富。
カッコいいキャラクターたちは魅力的で、会話の駆け引きも巧く、活躍に見入ってしまいます。
読み進めるうちに少しずつ謎の核心に近づいていき、ミステリーとしての満足度も高いです。
彼らがこの問題をどう解決し、どんな結末に辿り着くのか必見です!
<第1.2話を読んでのレビューです>
東京駅周辺の雑踏に紛れ込む、主人公の静かな目線から物語は始まる。都会の規則正しい流れの中で、銀行の支店閉鎖やマイナス金利の現実が淡々と描かれる。数字と制度の説明が続く中、主人公の心理は静かに揺れ、読者は都市の裏側に潜む不安と異様な気配に引き込まれる。
竹林に迷い込んだかのような「隠世」や、薄暗い四ツ辻に立つ異様な提灯の描写は、日常と非日常の境界線を巧みに曖昧にする。主人公の思考の細やかな追従、背後に漂う不安、そして仕事として訪れる恐怖のバランスが絶妙で、都会の現実感と異界の神秘が同時に立ち上がる。
文章は淡々としているが、視点の揺らぎや身体感覚の描写が丁寧で、読者は主人公と共に竹林を進むような臨場感を味わえる。銀行の現実と、異界の謎めいた要素が同居する構造は巧みで、静かな恐怖と軽妙な会話が交錯することで、独特の緊張感を保っている。
日常の裏側に潜む異界、そして淡々とした業務の合間に現れる非現実が交錯する描写は、都会生活の虚実や、個人の立場の脆さを静かに浮き彫りにし、読み手の好奇心と恐怖心を静かに揺さぶる、洗練された幻想譚のはじまりです。
それは、都心にひっそりと息づく『異界』だった。
北海道・猫魔岬での支店閉鎖を成功させ、東京本丸に戻った銀行員・藤崎。
次の配属を待つ彼に下された辞令は、ただの異動ではなかった。
舞台は、鬱蒼とした竹林に囲まれた都心の奥座敷。
『髙佰家』という名の、一切を秘匿された謎多き富裕層一族。
神隠し、卜占、死者蘇生。
都市伝説のような言葉が現実に顔を覗かせる中、
一部の者だけが、その屋敷の門をくぐることを許された。
新たに設立されたプライベートバンキング拠点。
それは「支店」ではなく、「謎多き富裕層」に仕えるための特殊な部署。
その任務は、金融か、それとも祓いか。
誰も知らぬ領域に、藤崎は足を踏み入れていく。
辞令から始まる、怪異と金融の交差点。
東京のど真ん中で開かれる、目に見えぬ扉が今、音もなく軋む。