架空の青春的日常の叙述

木下ふぐすけ

体育後の六限目

体育の後の六時間目なんて、たいてい気の抜けた授業になるもんで、実際、男子は何人も睡魔に負けていた。

最終的には理系でも文系でも受験に使わない科目なこともあって、先生も昼寝を厳しく咎めるつもりは無いようで、気にすることなく授業を進めていた。

私はと言えば、つとめて真面目に授業を受けているつもりだったのだけれども、気づけば、見ていたのは黒板ではなく、左隣ですやすやと眠っている君の方だった。

暑いんだろう。ブレザーのジャケットは背もたれにかけて、シャツの袖をまくっていた。

聞いたところによれば、男子は体力テストのシャトルランをしたとか。

昼ご飯食べてすぐシャトルランとか、よく吐かないね。私なら絶対吐く。

風が吹いた。桜の匂いはもうしなかった。

カーテンが大きく膨らんで、君の頬を撫でた。

君は、体を大きく震わせて、寝ぼけ眼であたりを見回した。

目が合った。

微笑んでおく。うまく笑えたかな。

君は小声で「いま何ページ?」と聞いてくれた。

「17ページ」

私は教科書を開いて、そのページを見せた。

「さんきゅ」

君は教科書とノートを広げて、そのまっさらなページをシャーペンでとんとん叩いた。

チャイムが鳴った。

君はびっくりしたように時計を見て、それから、きまりが悪そうに笑った。

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架空の青春的日常の叙述 木下ふぐすけ @torafugu

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