第5話・ルイセの推理力とタジタジなブラスト

 次の日。

 昨日と変わらずにフラフラと部屋から出てきたブラストだったが、そのタイミングで隣の部屋の扉が開く。


(マジかよ……)

  

 お隣さんとは顔を合わせたくないのか、目を逸らしながら横を通り抜ける。

 だが……そのお隣さんに腕を掴まれて部屋の中に連れ込まれた。


「やっと捕まえたわ!」


 赤い瞳にサラサラとした髪がなびき、ブラストの手に白く細い指が絡んだ。

 その瞳には力強い好奇心の色が宿り、ブラストはその瞳に自身のひるんだ顔が写り込むのを見た。


「え、あ、はい?」

「いきなりで悪いけどアタシの質問に答えてちょうだい!」

(ドユコト?)


 心当たりがあるのかブラストは口を紡ぐが、部屋に連れ込んだ赤髪の美少女は真剣そうな表情を浮かべている。

 彼女の輝く瞳がブラスト本人をを捉えて放さず、沈黙の時間の軍配は向こうに上がった。

 根負けしたブラストがたじたじと口を開く。


「それで何を答えればいいんだ?」

「そんなの決まっているでしょ。貴方が何でデスゲーム主催者を撃ち殺したかよ!」

「……」


 少し緊張しているのかルイセの腕が震えているが、それを隠す様に強気な言葉を放つ。

 それを聞いたブラストは、若干後ろに下がりながら彼女へ視線を向けた。

 

「証拠はあるのか?」

「もちろん! というか証拠がなかったら貴方を連れ込んでないわよ」

(コイツ、自分の身の安全を考えてないのか?)


 自信満々の彼女の発言にブラストは自分の心臓が跳ね上がる様な感覚を受けた。

 だがバレるわけにはいかないので彼は強がりながら言葉を返す。


「え? な、なら聞かせてもらおうか」


 今のブラストの状況はまるで蛇に睨まれたカエル状態。

 彼女の圧に少し恐怖を感じる彼は真顔になりながら冷や汗を流し始める。

 それを見た彼女は赤色の目を光らせる様に椅子に座ったブラストを睨みつけた。


「もちろん! あ、その前にアタシが何者なのかを伝えておくわ」


 少し勿体ぶりながら言葉を続ける相手にブラストは居心地が悪いと感じて表情を少し歪ませる。

 

「ッ!」

「少し焦り始めた? まあ、いいわ。アタシの名前はルイセよ」

「ルイセ……βテストの時に有名だった情報屋か」

「へぇ、よく知っているわね」

 

 赤髪の美少女ことルイセは自分が知られている事に喜んでいるのか笑みを浮かべた。

 だが彼女の鋭い視線はブラストを捉えたままで、凍える様な緊迫した空気が空間を包む。


「お前の情報は正確だがその分高値で取引されていたよな」

「そうよ。まあ、だから貴方の正体もわかるのよね」

「ほう」

(βテストという失言をしたのが不味かったか?)


 自分で失言に気づいたブラスト。

 この一言でルイセの中で何かがハマったみたいで、彼女はネズミを追い詰める猫みたいな瞳で彼を見つめる。

 

「βテスト自体に有名だった銀髪の凄腕スナイパー。貴方の名前はブラストよね」

「! なぜわかったんだ?」

「そりゃアタシは情報屋よ」


 βテスト時代、ブラスト以外にも有名なスナイパーいた。

 でも、ルイセはブラストと言い切ったので確定する物があったのか?

 まるで当たり前かの様に言い切る彼女に、正体を当てられた本人は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「確かにβテストでも凄腕のスナイパーはいたわ。でも飛び抜けて凄かった貴方を知らないわけないじゃない」

「なるほど……」


 名前を看破された事でブラストは自分の両手を握るがその手は震えている。

 もちろんクルセも彼の変化に気づいているみたいで、鼻を鳴らしながら追い込む動きをしていく。

 

「それに昨日のスキンヘッドとの会話で貴方が中央広場にいないのは確認済みよ」

「それは」

(あの場面を見られていたのか)


 タイミングが悪いと思ったのか、ブラストは苦笑いを浮かべたまま頭を抱えそうになる。

 だがここで抱えるのは違うと思ったみたいで、本人は湧き上がるマイナスな気持ちを我慢しながら顔を上げ続ける。


「まあ、ここまでだと状況だけで証拠にはならないのはアタシもわかるわ」


 ここでルイセが取ったのは緊迫した空気を緩める展開。

 そのためブラストは安心した様に息を吐くが、彼女は表情を緩めないまま冷たい視線を彼に向けながら続きを話す。


「でも昨日、壁越しに貴方の呟きを聞いたわ」

「それって……」

「ええ、貴方が何を呟いていたのかはメモにとったわよ」


 彼女が持つメモ帳。

 そこには昨日の夜の内容がそのまま書かれていた。

 

(ここまで細かく書かれているのかよ)


 彼女の行動や直感に負けた。

 ブラストはそう思ったみたいで、苦笑いを浮かべたまま両手を上げて降参のポーズをとる。


「俺の負けだ。それでお前は何を知りたいんだ?」

「そんなの広場にいなかった貴方がデスゲーム主催者をなぜ撃ち殺したかよ」

「なるほど」

(コイツの狙いはそれか)


 彼女の話が繋がったのかブラストは一つ頷く。

 だがその表情は真顔のままで、まるで自爆覚悟の戦いに身を投じる兵士みたいだ。


「アタシが考えるに何かしらでデスゲームの事を知って主催者を撃ち殺したんでしょ!」

「それは……」

(うっかり撃ち殺しましたなんて言えない)


 くだらない理由で主催者を撃ち殺した事。

 この重苦しい空気に戻った中、アホみたいな理由を口に出来ないと思ったブラストはゆっくりと頷く。

 するとルイセはニッコリと笑顔を浮かべた後、安心した様な息を吐いた。


「アタシの推理が当たっていてよかったわ」

「俺は最悪な気分だけどな」


 ぐちゃぐちゃな気持ちで吐きそうになっているブラストとやり切った感を出しているルイセ。

 二人の感情や動きは全く違うが、空気感が少し軽くなってきたのでさっきよりも話しやすくなりそうだ。


「あ、そうだ。これから貴方はどう選択していくつもりなの?」

「単純に始まりの街を離れたいと思っている」

「なるほど、なら一ついい提案があるんだけど?」

「うん?」

(なんか胡散臭いが聞くしかないよな)


 憂鬱な気分になっているのか苦虫を噛み潰した表情を浮かべるブラストだが、そんな事はお構いなく彼女は笑顔を浮かべながら口を開く。

 その姿と笑顔はまるで若手のアイドルの様でキラキラと輝いていた。


「ねぇ、アタシと組んでこのデスゲームを攻略しない?」

「何で俺なんだ?」

「貴方が凄腕スナイパーなのもあるけど、この緊迫した世界から一日でも早く出たいからよ」

「なるほど」

(理由自体はわかるか?)


 ここで断ってもいいが彼女に弱みを持たれている状況。

 そう考えたブラストは苦々しい表情の中、輝く笑顔を浮かべているルイセに向かって嫌々頷く。


「ありがとう! さてとよろしくね社長」

「お前は俺の秘書のつもりか?」

「そこは敏腕美人秘書と言ってよ!」


 空気の温度差が変わりすぎて風邪をひきそうになるが、ブラストは真顔に戻り彼女から差し出された右手を握る。


「そうか。ならコミュ症な俺にはちょうどいいからよろしくな」

「ええ、ただアタシも戦闘面では強くないからそっちはお願いね!」

「わかった」


 偶然なのか必然なのか、二人は互いに気持ちを通わせるように笑顔を浮かべた。

 しかし、彼女の次の発言で場が凍ってしまう。


「それでこれからどうするの?」

「それは……」


 特に何も考えたないのかブラストは口を紡ぐ。

 だがキラキラとした視線を向けてくるルイセと目線が合い、白旗を上げそうになりながら色々と考え始めた。


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